色から攻める

私はかつて、ものすっごくまずいミートソース(みたいなものの)スパゲティを作ったことがある。
友人にも食べさせた。おかわりまでさせた。
無理やりにではないにしろ、今でも、罪悪感でこの愛らしい胸がチクッとなるくらい、壮絶なまずさであった。

友人宅での昼食会。
そうだ、スパゲティにしよう。
ミートソースの缶があった。
でも人数分には足りない。
えー、どうしよう。
かさ増しのために冷蔵庫を開ける。
こういうときは、色から攻めていこう。
これぞ新しい調理法だ!
赤いもの、赤いもの…ないな。
カレーのレトルトパックがあった。
黄色でもいいか、暖色系ってことで。
足してみた。
具ももっと必要だな。
ツナ缶、投入。
味見…よくわからないなー。
そうだ、こういうときは隠し味だな。
とりあえず、そこら辺にある調味料を全部、少しずつ入れてみた。
目分量ってかっこいいよね。
どーれ、もうひとつまみ。
隠し味が互いに互いを隠し合って、実に奥深い味になるに違いない。
茹で上がったスパゲティを合流させる。
混ぜた。
ちょっと多く作りすぎたかなぁ。
でも、まぁ、よし。出来上がりー。

友人と向かい合って座り、同時に一口。
びっくりした。
想像以上にまずい。こんなにまずいものを作れるとは。
人間が持つ可能性の大きさに愕然とした。
おかしい。
食べ始めた直後だというのに、お腹が痛い。
なぜか笑いがこみ上げてきた。
今思うと、あれは笑いだったのかも疑わしい。
体からの切実な拒否反応だったのかもしれない。
不思議なことに、辛いものはひとつも入れていないのに、なぜかお互い汗が出てきていた。
なぜか「捨てよう」とはどちらとも言い出さなかった。
食べ切ること、それが唯一の脱出口になっていた。
実に苦しい闘いであった。
もう私は、これ以上は無理だ。
友よ、残りは頼む。
顔を歪めながらスパゲティを口に運び続ける友人。
冷めたらその分、まずさが増していたらしい。
あぁ、すまない。
私は得体の知れない汗をぬぐい、「色から攻める」調理法の失敗を思い知った。

この脅威のミートソースは、伝説となった。
その後も、私は友人たちに何度か手料理を振る舞った。
決して上手とは言えない出来ばかりであったが、「あれに比べると美味しい」と言ってもらえた。
まずくて笑える、そんな経験は後にも先にも、この一度きりである。

2004年5月28日

食べるということは

食事中、ふと「なんで私はこんなに一生懸命もぐもぐしているんだろう」と思うことがある。
まだもう少し食べたいなと思っていても、咀嚼に疲れて面倒になったりする。
食べるのが遅く、友達とごはんを食べに行っても、いつも私は最後になってしまう。
「よく噛んでから飲み込みなさい」という教えを忠実に守ろうとしているためだろう。
そのため、顎が疲れる。
もしかして、なんとか症なのかも。
大きく開くと右顎がギクッと鳴るもん。
寝ているときに歯ぎしりしているのかなぁ。
あと、箸を持つのに疲れる。
箸の持ち方を間違って(海原雄山には確実に叱責されるであろう)習得してしまったためだ。
それは鉛筆持ちで他の指は固定させたまま、親指だけを不器用にカクカク動かすという奇怪な持ち方で、 長時間箸を使っていると、手首が疲れてくる。
また、行儀が悪いのだが、テレビや新聞を見ながら(これも海原雄山に怒られる)食べるのが習慣になっている。
そんなこんなで、食事は休み休み、時にはイスの背もたれによりかかって天を仰ぎ見たりしながら、時間をかけてゆっくりと取っている。
なので、すごくお腹が空いているときは困る。
どんどん食べ物を頬張りたい気持ちに、「箸でつかむ→口に運ぶ→咀嚼する→飲み込む」という一連の作業が追いつかなくて、 なんだかすごく焦ってしまうのだ。

あぁ、私は生き物なのだなぁ。
カロリーを摂取しないと生きていけない、だから今、噛む!
それが、一生懸命もぐもぐする理由だ。
海原雄山にも山岡士郎にもなれない私だけれど、栗田さんにはなれるかもしれない。
そう言い聞かせて、幸せな日本にいる私は明日も何かを食べる。

2004年5月27日

惚れ髭危機一髪

私は、やや粗暴そうなヒゲの男性が好み、かもしれない。
「かもしれない」と言ったのは、完全なヒゲ好きではないだろうと、自分自身まだ疑っているからである。
あ、粗暴そうっていうのも、断じて、乱暴者が好きというわけではないからね。
いやぁ、人というものは、年を重ねるごとに異性の好みも変わるものだ。
私は20歳を越えたあたりから、どうやらヒゲのよさに目覚めたらしい。
似合っていることが大前提ではあるが、もじゃもじゃでもいいし、かっこつけ無精ヒゲもまたよし。
仙人ヒゲは、うーん、一応守備範囲の上限を現在、自分の年齢+10歳(つまり34歳まで)としているので、 その年齢で早くも仙人ルックは違和感あるだろうから、ないと考えて。
ヒゲ、かつ坊主っていうのも素敵だ。
そこに眼鏡を足してもいいなぁ。そして、スーツ。
あぁ、妄想しそうだ、危ない危ない。

ここらへんの好みは、妹のことりちゃんとは全く違っていて、なかなか理解してもらえない。
彼女が最もいぶかしく思う点は、さらに「粗暴そう」というキーワードが入るところらしい。
だって優しそうなヒゲはだめだもん。そんなのジャムおじさんだ。
粗暴ヒゲ…はっ!私、もしかしたら山賊みたいなのが好きなのかも。
そうだ、小脇に軽々と小鹿とか猪の子を抱きかかえて歩くヒゲ。
魅力的ー。力持ちー。殺生ー。
それでいてインテリで、学術書や科学雑誌なんかを常に数冊カバンに入れてたりしてさ。
そんな山賊いたらびっくりだけど。
でも彼って単なる追い剥ぎ?

確認。
あくまでも粗暴そうに「見える」のであって、実際に乱暴者だと困る。
ちょっと高圧的とか、ちょっと態度が大きいとか、その程度でいい。
前方からそんな粗暴そうなヒゲの若者がやって来ると、路上でもにやにやしてなぜか照れ始める。
そんなお姉ちゃんだけど、一緒に街を歩いてくれますか?妹よ。

2004年5月12日

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2004年05月


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