雨の音の後ろには

六条御息所の泣き声の鋭さを持ち降り続く雨   羽美

私の詠んだ歌に、「読点の多い打ち明け話なり二段ベッドの上段からの」という一首がある。
この歌にある通り、実際、私は今も、二歳下の妹と二段ベッドで寝ている。(妹が上の段、私が下の段)

ある夜のことである。
私は先に布団に入っていた。
部屋には豆電球しか点けていなかった。
うつらうつらとし始めた頃、上から「カツン、カツン、カツン」という硬質の音が聞こえてきた。
ベッドの縁を指で弾いているような音。

ああ、
眠りかけていたうちに、妹も部屋にあがってきたのだな。
しかし、その音は鳴りやまず、しつこく聞こえてくる。
私は、妹がいたずらをしているのだと思い、「うるさいなあ、もうよしてよ」と二段ベッドの下から文句を言った。
すると、ピタリと音は止んだ。

数分後、いきなり部屋の室内灯が点いた。
見ると、妹が扉を開けて立っている。
それまで一階の居間にいて、たった今、階段を上がってきたという。
では、さっきまでの音は…?

このような、ちょっとした「怪奇現象」には何度も遭遇している。
中学生の頃には姉妹そろって、異常に金縛りにあいまくるという時期があり、金縛りにかかっている最中、部屋を行進する複数の足音を聞いたこともある。

また、最近では今年、結社の新年会に参加するため、東京のホテルに泊まった夜のこと。
寝返りを打ったら、ふいに誰かの手が右肩にかかった感触がした。
無意識にそれを払ったのだが、次の瞬間、今夜はひとりきりで、ここはシングルベッドであることを思い出た。
一気に悪寒が走り、仕方がないので手持ちの頭痛薬を飲んで、しばらく布団にぎゅうぎゅうと丸まっていた。

とまあ、このような経験はままあることである。
しかし、私は霊魂やら幽霊やらあの世やらはほとんど信じていない。
すべては、生きている人間の空想や思い込みや願望であり、私の脳が脳の中だけで作り出した触覚であり聴覚なのだ、と思っている。

けれど。
夕顔を呪い殺した六条御息所のように、うつつの人間の強い思念が、他者や環境に多大な影響を及ぼすことは大いにあると思う。
怨霊はなくとも、怨念は在りうる。

雨の音の後ろに、誰かの泣き声が聞こえませんように。
それは、あなた自身の泣き声か、あなたが泣かせている人の声なのだから。

※歌壇2010年07月号/『音が聞こえてくる短歌』(一部加筆)

past >>

2010年07月


© Umi Sato All Rights Reserved.