おじいちゃんのハーモニカ

祖父を思い出す。
機嫌よくハーモニカを吹く祖父の姿を。

お正月、家の男のひと達は、ごく細かい金箔の浮かんだ日本酒を飲んでいた。
それは、お正月にだけ出されるお酒だった。
特別なお酒、テーブルいっぱいのごちそう。
正座をしてもらうお年玉。
家族みんなの笑い声。

そして、よい頃合に酔っ払った祖父は、家族八人の前でハーモニカ演奏を披露する。
曲目はいつも決まって、『荒城の月』だった。
青年時代、剣道に励んでいたという祖父のまっすぐな背筋を思い出す。

そんな祖父が亡くなって、七年が経った。
その間に、叔父も祖母も亡くなった。

屋根にしんしんと雪を積もらせた家に響く、祖父のハーモニカの音色。
そこへ時折、ブラウン管の向こうから流れる除夜の鐘の音が混じる。
そんな箱庭のような、蜃気楼のような、何年も繰り返されたお正月の風景を思い出すと、私はじっと、泣きたくなくなるのだ。

※歌壇2011年1月号/エッセイ「思い出の正月」

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2011年01月


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