相聞歌

凍つた手! と押しつけらるる掌を静かにもとへ返してやりぬ  澤村斉美『夏鴉』

押しつけられたのは、両頬を包むように、であろうか。
それとも、マフラーに巻かれた温かな首筋へするりと滑り込まれたのだろうか。
雪国に生まれ育った私にとって、「凍つた手」を押しつけることも押しつけられることも、何度も経験がある行為である。
鼻の奥の奥までしんと詰まる、清潔な冷気。恋人同士でなされると、こんなにも可愛らしく甘やかな光景はないと思う。

しかし、掲出歌の潔癖さはどうだろう。
「静かに」この一語がすべてを物語っている。
冷たい掌を、親密な気配を、目の前の相手そのものを、静かに拒否しているのである。
頑なとは違う、もっと潔くきっぱりと、もっと心の深いところで、拒否するという自分の行為を了承しているのだ。
それはもしかすると、微笑みさえ伴っているのかもしれない。

※短歌研究2011年2月号

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2011年02月


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