002:安心

[7864]岡村知昭さん

わたくしを安心させるためだけに野原に置いてある複葉機

野原に「置いてある」ということは、誰かが意図を持って、そこに「置いた」ということ。
その意図とは、作中主体を「安心させる」こと。
なんとも不思議な背景を感じさせます。
この不思議さを際立たせているのは、やはり「複葉機」という語の選択でしょう。
これが「飛行機」であったら、インパクトは弱くなっていたと思います。
はたして、「わたくし」は野原に埋もれるように置いてある複葉機のオモチャ(想像)を見て、 本当に安心することができたのでしょうか。

 

[5307]柳澤美晴さん

    安心を売る店にして制服のスカート丈を|ミ|シ|ン|で|詰|め|る|

表記の仕方が面白い。
うーん、私にはなかなか真似のできない発想です。
等間隔に置かれた「|」は、確かにミシンで縫われた糸目を思わせますし、 一語一語を区切ることによって、「ミシンで詰める」という言葉自体が、何か暗号のように重要なものに感じられる効果もあると思います。
ただ、「安心を売る店にして」の意味がいまいちわかりませんでした。
「店に来て」ではなく、「して」?

 

[4571]村上きわみさん

安心をたばねあぐねて食卓の醤油差しからしたたるしょうゆ

安心を「たばねあぐねる」という表現が秀逸です。
そこから「食卓の醤油差し」へと転換される視点もまた面白い。
「食卓」から、私は家族を連想しました。
家族の安心というものは、束ねられてやっと存在しているものなのかもしれないなぁと。
しかしその安心も、どうしても醤油差しから滴ってきてしまう醤油のように、束ねようとしても何かの拍子に手からこぼれてしまう。
「あぐねる」の言葉に、やや疲れた表情で食卓の椅子に座る、作中主体の表情が浮かんでいるように見えます。

 

[7813]石川美南さん

それで僕は一安心で窓の黒い目張りを剥がし犬を洗つた

ある一日の行動を切り取った一首。
不思議な魅力があるのは、「窓の黒い目張りを剥が」すという行為と、「犬を洗」うという行為が選ばれているところでしょう。
作中主体は、これらの行為を安心していなくてはできないものの代表として捉えているのです。
「それで僕は」…何に対して、どうして一安心できたのか。
連作の形で読みたい世界観です。

 

[897] 宮川大介さん

「安心」は(オセロで一挙逆転のように)隅からめくられてゆく

想像すると、じっくりと怖い歌。
ひとりの人が、あるちょっとしたキッカケや疑惑から、情緒がみるみる不安定になっていく様子を表した歌のように感じました。
「一挙逆転」という言葉は、逆転勝利と同義とか、何かいい状況を表すときに使われるように思っていた。
が、それは逆転した側の発想であって、逆転される側にとっては、まさに天国から地獄、白から黒、安心から不安のどん底に落ちる感覚なのでしょう。
しかも「隅から」「めくられ」るようにバラバラと襲ってくる不安感を想像して、とても怖くなったのです。
ただ、(カッコ)を使う必然性をあまり感じないような。
私自身が、短歌の中であまりこの(カッコ)を使うことがないので、そう思うだけかもしれませんが。

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