003:運

[7865]岡村知昭さん

カーテンを纏ってがたがた震えるなヤマト運輸の黒い猫だろ

なんて可愛らしい歌でしょう。そして、なんて横暴な要求。
「ヤマト運輸の黒い猫」だと、なぜ震えてはだめなのか。
可哀相で愛らしい。
一読して、カーテンを体に巻きつけて震えている黒猫の姿が目に浮かびました。
平面から飛び出してきたあの有名な、クロネコ。
クロネコは何を恐れて震えているのか、作中主体が実際に一首の中に存在しているのか。
わからない部分はそのままに、その不思議でおかしな世界を楽しむことができる歌です。

 

[4984]兵庫ユカさん

たくさんのひとが死ぬとは思わずに 春 アイロンをするする運ぶ

このお題で、一番深く心に響いた一首です。
詠われている情景はとても穏やかなものなのに、鋭く突き刺さってくるような衝撃を受けました。
どのような背景なのかは不確かなのですが(やはり戦争でしょうか)、作中主体は本当に、 「たくさんのひとが死ぬ」なんて思ってもみなかったのだなと感じさせます。
アイロン台の上の出来事と、現実とのギャップの激しさ。
作中主体の心の動揺(「たくさんのひとが死ぬ」ことを知ったための)と、実際にアイロンを 「するする」と動かしているという行為とのギャップ。
前後一字空きの「春」がまた、効果的な配置だと思います。

 

[10994]水野華也子さん

倉庫よりコピー用紙を運び出すデジャヴは前の世の盗賊か

[10175]ことらさん

占いで前世を聞けばわたくしは孤独な海運王の飼い猫

どちらも、前世を詠んだ歌。
[10994]
ユーモアのある一首。倉庫は金持ち商人の蔵、まだ包装されたままのコピー用紙の束は札束でしょうか。
前世盗賊の疑いは個性的ですが、その感覚はどこか共感できます。
仕事中にふと頭をよぎる妙な思い、それはもしかして真実のお告げなのかもしれません。


[10175]
結句まで読んではじめて意味が完結する歌。
「孤独な海運王」が効いています。
さぞ波乱万丈な人生を送ったであろう海運王。
そして「わたくし」は、主人の孤独な心を癒してきた飼い猫だった。
主人の膝に乗りながら、来世はわたくしも人間になりたいなどと思っていたのでしょうか。

 

[1002] ヨシノタマキさん

    疑えば手に入らない永久運動装置としての石ころ、刹那、ドラえもんなど

ドラえもんが登場した時点で選んでしまった歌。
石ころも「石ころ帽子」として認識してしまいそうです。
そう、疑えばこれらはすべて手に入らない=「存在しないもの」になってしまう。
なんてことない物の象徴である、石ころ。
目で捕らえることも触ることもできない、刹那。
輝かしい未来からやってきたネコ型ロボット、ドラえもん。
石ころとドラえもんにはさまれて、刹那だけが抽象的な言葉で、3つが並ぶことによって、頭の中のイメージが心地よく飛びます。
ただ、「刹那」という単語があまりに詩的というかかっこいいので、そこに少し引っかかってしまいました。
あと、「永久運動装置」を持ってくることによって定型が壊れてしまったのが、一首を読みにくくさせているように感じました。

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