010:チーズ

チーズの独特の匂い、色、感触、そして溶けていく形体。
それらが詠み手の感性を刺激し、独創的な短歌が多く生まれました。

 

[8131]紅茶硝子さん

運命の糸がチーズでできていて食べ進んだら君がいました。

ポップなキャッチコピーのような一首。
可愛らしくておしゃれです。
運命の糸を食べてしまった、というのがまず可愛い。
そして食べ進んでいった先に「君がいました」
赤い糸を必死に「手繰る」ほどの執着心を感じさせない、愛の告白になっています。
チーズから小さなネズミ(アニメ『トムとジェリー』のジェリーみたいな)が連想され、 そのイメージが一首の可愛らしさを補強しているのではないでしょうか。

 

[7872]加藤苑三さん

なぜ泣くの。あなた、だれなの。うれしいの。とけだしているこれはチーズなの。

とても面白い手法だと思いました。
たたみかけるような言葉が軽快でありながら、同時に切迫感をも感じさせます。
何度か読んでいると、これは性愛の歌(チーズが溶けている様子は官能的)だと思いました。
本当に、ギリギリの境界線にしがみついている感覚。
ただ、結句以外があまりにもリズムよく、とんとんと繋がってきた分、結句の字余りが惜しいように感じました。

 

[6374]ひぐらしひなつさん

真夜中にチーズ嚼みつつ惑星の崩壊してゆくさまを見ている

[5374]遠山那由さん

毒入りのシャトー・マルゴーあおるならチーズまみれの接吻のあと

チーズから「破滅」や「死」を連想している歌を二首。


[6374]
作中主体はどこから崩壊のさまを見ているのでしょうか。
私は「宇宙船の中、惑星爆破装置のスイッチを押した冷徹な将軍」をイメージしました。
まるでスローモーションのようにゆっくりと崩れていく惑星を、同じスピードでゆっくりチーズを嚼む侵略者。
そして、真夜中のチーズには、やはりワインでしょう。


[5374]
しかも毒入りのワインです。
この一首は悲劇の舞台装置として、チーズが置かれています。
作品世界も、現実の出来事としてでなく、舞台で演じられている物語の一場面のように感じました。
シャトー・マルゴーとチーズの二語で、場所や時代が、現代日本から遠く離れたところに設定されます。
私は、「ヨーロッパの古城」を想像しました。

 

[5316]柳澤美晴さん

くちづけがブルーチーズの味わいになるのでしょうか では、後の世で

[5374]と同じく、チーズと接吻(くちづけ)を詠んだ歌。
男女の別れを詠っているのでしょうか。
ブルーチーズを口にしてから、くちづけをするのか。
それとも「別れのくちづけ」だから、ブルーチーズの味わいがするのか。
口調は穏やかですが、別れの意志は固く、今生ではもう二度と会わないと宣言しているようです。
「では、後の世で」が作品全体に軽やかでユーモラスな印象を与えています。

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