013:彩

[976]河村壽仁さん

午前三時の渦潮にきみの船は乗る 水彩絵の具はまだ乾かない

具体的な情景(作中主体がどこにいるのか、「船」の中には「きみ」は乗っているのか、 水彩画を描いているのは誰なのか、なぜ「午前三時」なのか)は明確には思い浮かべることができないのですが、 なんとも言えない不思議な世界に引き込まれる感覚。
まるで「渦潮」に巻かれていくかのように。
「水彩絵の具」の水と、「渦潮」とのイメージが結びついています。
絵の具で描かれているのは、きっと「きみの船」なのでしょう。

 

[9027]なかはられいこさん

言わなくていいよとだれか水彩のうっすら青い声でささやく

水彩のごくごく薄い青色とは、相手の耳に軽やかに響くような(気軽で、少し無責任に感じるかもしれない) 声を表しているのでしょうか。
作中主体は「言わなくていいよ」と、誰かに言ってもらいたがっているのだと思います。
軽やかに。それとなく。
「うっすら」と破裂音が挟まれることによって、一首に面白いリズムが生まれているようです。

 

[10051]佐原みつるさん

火曜日は彩度の低いペンギンがゼブラゾーンの向こうから来る

絵本の1ページのような一首。
「彩度の低いペンギン」というキャラクターがチャーミングです。
横断歩道をペタペタと、あの歩き方で渡ってくるペンギンの姿を想像すると、奇妙ながらも微笑ましくなります。
なぜ「火曜日」なのでしょう。
月曜日から日曜日までを、いろいろな動物で詠んだ連作をぜひ見てみたいと思いました。

 

[22729]小林真紀子さん

そこにまた重ねられたら滲むだろう水彩絵の具のようなやさしさ

水彩絵の具の滲みには、いつも失敗していた思い出があります。
小学校・中学校時代の図画の授業。
毎回、思った通りにきれいに滲んでくれなくて、画用紙がボコボコになってしまった思い出。
この一首では、その滲みに「やさしさ」を見い出しています。
その「やさしさ」は、画用紙に絵の具が滲むように、作中主体の心にじわーっと拡がったのでしょう。
絵の具を重ねられる「そこ」は、読み手によって様々に置き換え可能な場所なのです。

 

[7465]小島左さん

嫌なことみな外側に置き去りにして金平糖彩るように

色とりどりの金平糖。その色彩の豊かさに着眼した一首です。
「嫌なことみな外側に置き去りに」する行為は、多分、いけないこと。
けれども、ここにはそんな自分をシニカルに見つけているもうひとりの自分の存在がいます。
それは、「金平糖」という語に、シニカルさと少しひねくれたユーモアを感じるからだと思います。
丸いキャンディではなく、小さくてトゲトゲしている金平糖。
ただ、
金平糖=「外側に置き去りに」した「嫌なこと」の象徴…
ということなのでしょうか。そこが不確かです。

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