014:オルゴール

[8340]吉野亜矢さん

オルゴール鳴り止みそうな黄昏に君の髪梳く金色の櫛

オルゴールの奏でる音楽を聴きながら、愛する人の髪の毛を梳いているという情景。
「黄昏」と櫛の「金色」が視覚的に響き合い、美しい幻想のような世界を見せてくれます。
きっと、「君の髪」も陽の光に美しくきらめいているのでしょう。
しかしオルゴールは、もうすぐにでも「鳴り止みそう」に弱々しい音になっていく。
ひっそりとやってくる不幸の香りを感じさせます。

 

[6485]杉山理紀さん

くりかえし巻き戻されてオルゴール滅ぼされてはよみがえるため

オルゴールがゼンマイ仕掛けであること、そのゼンマイを誰かが巻かなくては沈黙したまま (=巻かれたら何度でも鳴り続ける)であることを、改めて発見させてくれた一首。
「滅ぼされてはよみがえる」という言葉は、その永久的な反復性を見事に表しています。
上句の主語を「オルゴール」にすることで、読み手の視点がオルゴール内部からのものになり、 下句の言葉が持つ意味の重大さが強化されていると思います。

 

[5086]佐藤友紀さん

    オルゴールをここで壊しているわけを訊いてくれないか泣きながらでいい

これは、「オルゴールをここで壊している」作中主体が、泣いているのではないのですね。
それを見ている誰かが泣いている。
なぜオルゴールを壊しているのかも訊かずに、もしかしたら、ただそこに突っ立って、呆然とその様子を見ていたのかもしれません。
オルゴールを破壊するというのは、なんだかとても「とんでもないこと」をしているように感じられます。 切羽詰っている感じ。
作中主体は、狂気の境のギリギリのところで耐えていて、(君が)「わけを訊いてくれ」るのを待っているのです。
それが、自分を「こっち側」に引き戻してくれる手段だと信じているのだと思います。

 

[982]河村壽仁さん

(僕が単音で屋根裏のピアノを爪弾く)
「さあ食べよう」二〇三の鈴木家の夕餉の部屋にオルゴール鳴る

河村さんの短歌は、まったくのフィクションの世界を詠ったとしても、 そこに日常性とユニークさがうまく表現されているのが特徴のひとつだと思います。
この一首には、何とも言えない不思議でおかしな時間が流れているようです。
やや古びたアパートを思い浮かべました。
オルゴールの持つノスタルジーからでしょうか。
二〇三号室は鈴木家であるという指定から、同時刻(夕飯時)の二〇二号室や二〇四号室の人々の生活までをも想像させます。

 

[6918]田丸まひるさん

    もう何も聞きたくないの(怒らないでお願い)オルゴールの歯も全部削って

まひるさんの短歌は、感情に突き動かされて詠んでいるように感じられます。
この一首は破調になっていますが、それがかえって、作中主体が抱えている感情の緊迫さを表しているようです。
「オルゴールの歯」が、ただの金属の部品なのだとわかっていても、「歯」という語は有機的なイメージを持って迫ってきます。
そして、その「歯」を全部、削る。
結句は、相手に「削ってくれ」と頼んでいるのでしょうか。
口語体だと、このように動詞が命令形か連用形か、また連体形か終止形かがわかりづらくなるという欠点もあります。

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