016:乱

[10453]紅茶硝子さん

美容院帰りに君んち寄るからさ、いいコいいコで乱してちょーだい。

美容院から出てくるときの高揚感やちょっとした幸福感は、独特なものがあります。
そのふわふわとした気持ちのまま、一番好きな人に会いに行きたい。
綺麗にセットしてもらった髪を、きっとぐしゃぐしゃと撫でられてしまうとしても。
「いいコ」や「ちょーだい」という表現が、作中主体の現代の「少女性」をうまく表していると思います。

 

[3576]桐嶋清雅さん

許すこと、許されること、許されぬこと。乱されてゆけ秋の空

結句があまりにすっきりと収まっているかな、という気もしましたが、とても情感豊かな一首になっています。
「許すこと」「許されること」「許されぬこと」が、散り散りになりながら 秋の空に浮かぶ雲のように流れている様子を思い浮かべました。
「乱されて」ゆくのは、作中主体自身の心なのではないでしょうか。

 

[562]しんくわさん

殿乱心 俺も乱心 庭番も そして全員腐乱死体

ものすごい変化球を投げられた感覚。
バッターボックスに立って、はたと気づいたら見逃し三振だった、という感じです。
ラップのような詠い調子と、「殿」と「庭番」という登場人物の設定が組み合わされることによって、 奇妙な笑いの世界を生み出しています。
(詠み手に、「読者を笑わせよう」という気持ちがなかったのなら、申し訳ないのですが。)
見逃してしまった球を録画ビデオで確認して、その速さとカーブの特異さを思い知った思いです。

 

[1709]河村壽仁さん

乱歩讀む風呂屋の番台煌煌と 路面電車に帰るひとのる

銭湯という設定、「讀む」「煌煌」といった漢字の選択が、江戸川乱歩の小説の世界を読者に意識させます。
一文字空けの前と後ろの場面変換が鮮やかで映像的です。
「番台」はここでは場所のこと?それとも「番台さん」?
最初、一文字空けは必要じゃないのではないかと思ったのですが、「煌煌と」が以降の文にかからないようにという配慮からでしょうか。
しかし、路面電車のライトや線路に反射する街灯などを連想させます。
全体的に助詞が省略されているのが気になりました。

 

[8822]森川菜月さん

あるからであるあるからであるからだ逢って乱れたあとの図書館

言葉の繰り返しが面白い一首。
前半を意味で区切るとすれば、
「あるからである/あるからで/あるからだ」(同義の反復・強化)でしょうか。
しかし全体的に官能的なイメージを抱くのは、この前半部分の最後「からだ」が「体」と読める点によるのではないか。
場面設定を図書館としたところで、なにか秘密めいたものを、読み手も共有しているような気持ちになります。
今はもう図書館内は静まり返っているのだろう。
だからこそ、その前の「乱れた」時間をより一層際ださせています。

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