018:ロビー

[17054]加藤苑三さん

    ロビーにて こらえた涙はぎゅっと濃ゆい「さあ、ご破算で願いましては」

下句のセリフの魅力に心奪われました。
思わず抑揚をつけて読んでしまうリズムのよさと、短歌の中でこのセリフに出会ったこと自体のユーモア性。
そして感じる、アイロニカルな哀しさ。
第二・三句は語数をそろえる余地が残っているようにも思いましたが、下句のセリフの雰囲気には 「こらえた」「ぎゅっと」「濃ゆい」という力強い言葉が合っているのだ、と思い直しました。

 

[13649]森川有さん

病院のロビーで君を待つときはいつも二月の匂いがしたよ

病院のロビーという舞台設定、それ自体の切なさが心に染みてきます。
「二月の匂い」…
決して、二月以外には置き換えられない必然性を感じます。
私は、夕方の雨の匂いを思い起こしていました。
冷たい、身体も心も冷やしていくような二月の雨。
音でも景色でもなく、「匂い」に着目した点が素晴らしい。
病院の消毒液の独特の匂いを、読み手は「二月の匂い」として喚起するのです。

 

[12871]佐原みつるさん

病院のロビーの床にクレヨンで正しく書いた三角形を

病院の何科は記されていませんが、精神科や心療内科を示唆しているように感じました。
病院のロビーのつるつるとした床に、クレヨンで何かを描いている情景。
そこには、牧歌的な狂気のようなものを見い出すことができるのではないでしょうか。
描いているのは、「正しく書いた三角形」
その「正しさ」とは、作中主体の頭の中にしか存在しないのかもしれません。
さて、下句は倒置法になっているのでしょうか。
「三角形を正しく書いた」という意味なのか、それとも、「正しく書いた三角形を〜する(した)」 と受け手の想像力に渡した形なのかが、判別しがたかったです。

 

[9114]なかはられいこさん

ぼくたちの語尾をしとどに吸い込んでくちなしホテルのロビーは日暮れ

「しとど」とは、ひどく濡れている様を表す副詞。
その意味を知らなくても、「語尾が吸い込まれる」という独創的な表現に心引かれました。
私は、日がどっぷりと暮れてしまうまで、時間を忘れて話し込む「ぼくたち」の楽しい様子を想像しました。
場所は、ロビーのゆったりとしたソファ。
そして、ホテルの名前は「くちなしホテル」
おしゃべりな「ぼくたち」と対照的な、「口無し」という単語が思い起こされて、ユーモアを感じます。

 

[5578]佐藤友紀さん

ふかふかのロビーの椅子の肘掛けに刺されたままの赤いマチバリ

「赤いマチバリ」にやられました。
とても魅惑的なフレーズです。
初句から順々にイメージが浮かんできて、ロビーというひとつの空間の中で、 カメラがぐんぐんクローズアップしていくような動きが見えます。
結句に至るまで、読み手を引きつけ続ける構造になっています。
最後の最後に示された「赤」の色が、フィードバックして一首全体のイメージカラーとなり、 私には、ロビーもふかふかの椅子も肘掛けも、ビロードで深い赤色をしているように感じられました。
また、「マチバリ」とカタカナで表記したことによって、この一語の存在感が大きくなっています。

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