021:胃

[17058] 加藤苑三さん

胃カメラのようにシンプルな機能でそこまで行ってきっと見つける

胃カメラは確かに、実に「シンプルな機能」のものですよね。
他に用途がないもの。
目的地までぐんぐん前へ前へと、何かを発見するために進んでいく。
胃カメラの細くくねくねとした動きを想像します。
さて、この歌では何を「見つける」と言っているのでしょう。
目的語は明記されていませんが、「そこまで行ってきっと見つける」という明るい言葉に、なにか救われるような気持ちがします。

 

[9908]岡村知昭さん

竹之下胃腸病院受付のアンドロイドの静かなること

竹之下胃腸病院は実在しているのか。
アンドロイドは本当にアンドロイドなのか。
実は、とても物静かな受付係の人間なのではないか。
しかしどんな疑問も、竹之下胃腸病院の待合室の静けさの中では発することができなくなるのです。
結句「静かなること」の、実に静かなる一首の締め方。
アンドロイドの瞳の色は何色なのでしょう。

 

[3880]斉藤そよさん

いい日です足りないものは何もなく胃も痛くなく泣きたくもない

厳密に言うと、この日が本当の本当に「いい日」なのかと聞かれると、そうだと言い切れないのかもしれません。
ただ、この日は、とくに足りないと感じるものがなく、胃が痛くなく、泣きたいと思うときがなかったというだけで。
「いい日」=幸福な日、ではないということです。
言い換えれば、この日以外はいつも、何かが足りない感覚と胃痛と泣きたい衝動を抱えて過ごしているのでしょう。
作中主体の環境がどんなものなのかはわかりませんが、このはかない安息の一日が穏やかな睡眠へと続いていくことを願います。

 

[10336]ほそかわゆーすけさん

「別れよっか。」あっさり言った君の声。今でも胃の中、石みたいに。

まるでドラマのようなストーリー性を感じさせます。
ただ、「別れよっか。」自体があっさりしているとわかる台詞なので、「あっさり言った」は 別の言葉で置き換えてもいいように思いました。
相手に言われた言葉が、石のような手触りと質量を持って、いつまでも胃の中に留まっている感覚。
それは、誰もが経験したことがあるのではないでしょうか。
私も、
>胃の中に青い文鎮つめ込んで私あなたを憎みはしない
という短歌を詠んだことがあります。
この場合、自分から進んで「つめ込んで」いるのですが。

 

[8763]かいりさん

空腹に熱いミルクを飲みほして今、胃のかたち確かめている

自分自身の経験として、よく共感できる一首です。
空腹時に何かを飲むと、胃にすみずみ染みわたる感覚になります。
それを「胃のかたち確かめている」と表現したのが巧い。
真っ白い牛乳がみるみる流れ込んで、胃を形作っていくのが見えるようです。
ただ、意味の問題で、空腹のときに「熱いミルク」を、しかも飲み干すかなぁ、 とはじめ思ったのですが、ふぅふぅ言いながらじっくりと飲んでいくことによって、 「確かめている」という実感につながったのだと思い直しました。
どうしても「飲み干す=一気に飲む」とイメージしていたのです。

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