022:上野

[17746]なかはられいこさん

いつかくるおわかれのため上野にはうすむらさきにけむる噴水

薄紫色というのは、現実世界ではなく、作中主体の心象心理の世界の中から見えた色なのでしょうか。
上野という舞台設定、ふたりを包む薄紫色の水しぶき。
作中主体の心の中の物語が、すでに「いつかくるおわかれ」に向かって進行しているように感じます。
初句〜第二句がひらがな表記になっていることによって、「本当にお別れが来るとは、 作中主体は思っていないのではないか」という気になります。
ひらがな表記は現実感を薄める効果があるようです。

 

[11397]村上きわみさん

殴られたことさえなくて上野まで上野の空を確かめにゆく

もう私は完全にアムロ・レイ(機動戦士ガンダム)の名台詞を思い出していました。
果たして、父親にさえ殴られたことのなかったアムロは、どこかへ空を見に行ったのでしょうか。
話を短歌へと戻して、「上野の空」
空は境目がなく繋がっていて、常識的に考えると、その土地だけの空というものが存在しないことは誰でも知っています。
けれど、この「殴られたことさえ」ない作中主体は、わざわざ上野の空が上野の空であることを「確かめに」、 上野まで出かけていくのです。
確かめた後にどうするのか。
それは多分、作中主体にもわかっていないのだろうと思います。

 

[10341]田丸まひるさん

    パンダというパンダ上野にむかってもあなたまだかわいそうじゃないから

世の中のすべてのパンダが上野に向かって行進している姿は、異様で可愛らしくて恐ろしい。
なんてゆっくりした白黒のマーチ。
けれど、全パンダよりも、作中主体の目が向いているのは変わらずに「あなた」ひとりなのです。
「まだかわいそうじゃない」という状況がどんなものなのか、具体的に想定はできないのですが、 その言葉の持つ断固とした意思と、パンダの行進という非日常性とがマッチして、この一首の魅力となっています。

 

[1779]河村壽仁さん

青森から上野に着いて寺山修司はモカを一杯と言つたかもしれぬ

うん、そう言ったかもしれないなぁ、としみじみ同意したくなりました。
寺山修司は青森が誇る才能です。
実際にはじめて上京したときはまだ若い青年だったと思いますが、 この歌から想像されたのは、コートを羽織って、少しうつむき加減で歩く大人の彼の姿でした。
酸味の強いモカと寺山修司のイメージが重なり合います。
しかし、6・7・8・8・8という大きな破調は、もう少し整える余地があったのではないかと思います。

 

[8630]玲はる名さん

    ためらわず、決めたんだろう? 咲いて好し 上野の鳩で終わるのも好し

目の前にいる誰かに、ぐいっと言い迫られている感覚。
「人生の選択をしたのだったら、潔く生きていけ」というメッセージとして、私は受けとりました。
花のように咲いて散っていくのもいいし、上野にいる鳩のように、地面に落ちた餌をつついたり、 ときどき羽ばたいたりしながら生きていくのでもいい。
示されているのは二例だけだが、だからこそ、 読む側は自分自身をその続きや背後に投影させることができるのだと思います。
さて、「咲くこと」と「上野の鳩で終わること」は二元化されているのでしょうか。
前者はいい人生で、後者は決して満足でない人生。
「終わる」がそのことを象徴しているように感じます。
どちらも「好し」と言いながら、上句の口調からも突き放した感があって、私はどこか後ろめたい気持ちになったのです。

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