023:望

[11398]村上きわみさん

望まれて、雲雀になって、黄金の、どうしようもないわたくしである

詩情豊かな一首。
(あなたに)望まれて、「わたくし」は黄金の雲雀になってしまう。
錦絵のようなきらびやかさを思わせます。
「、」で区切られることによって、雲雀になっていく過程が見えてくるようです。
しかしそれは、「どうしようもない」と表現されている姿なのです。
また、漢字とひらがなの選択のバランスが素晴らしいと思います。
上句がそれぞれに配置されている漢字。
下句のひらがな表記で表現された「どうしようも」なさ。
音声的にではなく視覚的に見てこそ、その間や美しさが完成される歌ではないでしょうか。

 

[17153]加藤苑三さん

肺いっぱいヘリウムガスを吸いこんでおおきな声で希望を語れ

ヘリウムガスを吸ってしゃべると、高くておかしな声になるのですよね。
その声で、「希望を語れ」とは、実にアイロニカルな歌です。
しかも「おおきな声で」、そして多分人前で。
自分の胸の内にある希望を声高に他人に語ることを、茶目っ気たっぷりにちゃかしているように思われます。
言い換えると、ヘリウムガスを吸った(=平常時とは違う声になる)からこそ、希望を「おおきな声で」語ることができるよ、 と作中主体は教えてくれているのかもしれません。

 

[21276]林ゆみさん

履歴書の志望動機をうめている昨夜のカレーがまだ匂う朝

履歴書を書いているときの不安感や緊張感といったものと、カレーという通俗性の高い日常世界のアイテムとの、その距離感。
履歴書を書いているときの絶対的な孤独感と、カレーから想像される「家庭の食卓」の風景との距離感。
その距離の大きさが、この一首の詩性になっています。
履歴書を書き終えたら、カレーを温め直し、朝ごはんにするのでしょう。

 

[4040]斉藤そよさん

どうしてもうまく失望できなくて未だみどりのみどりのこゆび

「失望」するにも、上手い下手があるのですね。
緑色の小指、とは何を意味しているのかわからなかったのですが、 「みどりのみどりの」と繰り返されることによって、作中主体がじっと自らの小指を見つめているような感覚を覚えました。
失望はそれだけでつらいものなのに、その失望さえも上手にできないなんて。
「うまく失望」できる人の小指は、何色をしているのでしょうか。
小指の存在感と「失望という感情」のイメージには、何か必然的な共通性があるように思います。

 

[3954]桐嶋清雅さん

もう明日とか明後日を信じたくなくて希望をライフルで撃つ

青春期特有のいらだちや不安感や焦燥感を、ストレートに表現している一首です。
もう信じたくない、ということは、以前は「明日とか明後日」を信じていたということ。
「ライフル」という非日常的な武器も、自己完結しがちな青年の心理をよく表していると思います。
これがカッターナイフだとか、現実に日本社会の若者が起こしうる暴力行為(自傷を含め)であったのなら、生々しくて私は好みません。
ただ、お題が「望」なので、必然的に「希望」が詠まれているのですが、ここはそのような抽象的な言葉ではなく、 なにか具体的なモノを、ライフルで撃ったほうが衝撃度は出てくると思います。

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