035:二重

[23914]石川美南さん

蝉の音は耳に背中に突き刺さり二重スパイのすばやき昼餉

作中主体は、自らを「二重スパイ」だと想像しているのだと捉えました。
蝉の鳴き声に囲まれながら、屋外のベンチで「昼餉」を食べる夏の日。
なぜ「二重スパイ」なのか。
蝉の声が「耳に背中に突き刺さ」る感覚からは、何かに追い立てられている生活を感じさせます。
非現実の世界(=二重スパイである自分)に逃避しなくてはならないような状況。
その緊迫感を、結句「すばやき昼餉」とユーモアで包んでいるのだと思います。

 

[18383]なかはられいこさん

手放すと見失うから『わたくし』を二重括弧でくくっておくの

表記(『』)の面白さと、意味内容の深さ。
アイデンティティーは、手放すと見失ってしまうという。
同じようなことを唱える歌は世の中にたくさんあるけれど、それらと一線を画しているのは、やはり「二重括弧」という表現でしょう。
括弧(「」)ではなく、二重括弧(『』)を使うとき、そこには何かしらの意思が生まれます。
私は、固有名詞を書く場合、二重括弧でくくるようにしています。
ここでは、二重括弧は、「わたくし」の私性を保ち続けるための保護柵の役目を担っているのです。

 

[2152]河村壽仁さん

舞い落ちる雪の華のひとひらをきみは二重のまぶたに乗せをり

とても美しい歌です。
詠われている情景だけでなく、漢字の選択やひらがなの使い方も美しいです。
「乗せをり」と書かれていますが、決して「きみ」は意思を持って、まぶたに雪を乗せたのではありません。
作中主体の目線が、恋人の「二重のまぶた」に注がれているからこその表現なのでしょう。
雪の結晶が見えるほど近くで。
それが「きみ」の体温で溶けていく様子も、きっと見つめているのだと思います。

 

[14031]ほそかわゆーすけさん

珍しく晴れたみたいだし目覚めもいい。二重橋で待ってるから来い。

一見、相手の都合を考えない横柄な要求かと思いきや、それは照れ隠しなのですね。
天気がいいということも目覚めがいいということも本質ではなく、「会いたい」という気持ちこそが、作中主体の心を占めているのです。
「待ってるから」に隠し切れない優しさを感じます。
こういうふうに呼び出されたら、私だったら、寝ぼけ眼で「まったくもう、自分勝手なんだから」と文句を言いながらも、 うれしくて急いで準備をしだすかもしれない…と想像していました。

 

[7972]萩原留衣さん

今週の私の評価は二重丸ぷっちんプリンでお祝しましょう

これは「私」が自分自身を評価しているのか、それとも誰かに評価されているのか。私は後者の意味に受け取りました。
たとえば、職場の営業成績とか。
「ぷっちんプリン」という商品名の軽さと明るさが、社会において相対化されてしまう自分に対するシニカルさを表しているように感じます。
「お祝しましょう」誰と?多分、ひとりで。

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