036:流

[19736] 加藤苑三さん

深呼吸してみろ、すべて押し流せないなら今は泣くべきじゃない。

苑三さんの短歌は、ときにこうして励まして背中を押してくれます。
優しく背中をさすってくれるのではなく、適切な距離を取って、ぽんっと投げてくれる言葉。
「すべて押し流」すとは、涙でということでしょうか。
泣いてすべての悲しさも悔しさも怒りも流すことができれば、これほど楽なことはありません。
しかし、社会で生きていると、そうそううまくは泣けない。
だからこそ、涙を飲み込んで、ゆっくりと深呼吸する。
これはとても暖かい一首なのです。

 

[14500]田丸まひるさん

流水にさらす眼球ほんとうにあなたの正しさにはまいります

眼球のアップ(レンズでぐんと寄ったような)が迫ってくる感覚。
前半と後半の場面転換が鮮やかで、「流水」の清らかさと「あなたの正しさ」がリンクしています。
動詞「さらす」の選択も巧い。
「あなたの正しさにはまいります」というときの素直さには、あきれた気持ちや、 強がりや哀しさのようなものも含まれていると思います。

 

[7022]五十嵐きよみさん

下流へと彼の走らす自転車は風にぎるぎる鳴ったのでしょう

一読、「ぎるぎる」という擬音が個性的で面白かったです。
「鳴ったのでしょう」と推量・伝聞形になっていることから、作中主体が、 実際に「彼」が自転車を走らせている様子を見たわけではないことがわかります。
つまり、この「ぎるぎる」という音は、作中主体の頭の中だけのもの。
作中主体が持っている、「彼」に関するすべての印象が、「ぎるぎる」に集約されているのだと思います。
視点は、自転車とともに下流へと滑ってはいかずに、 その場に固定されたままになっているように感じました。

 

[5600]斉藤そよさん

二晩も冷たい雨をきまじめに降らせたあとに星が流れる

冷たい雨には「きまじめ」という形容詞が合いますね。
主体になっているのは、神様、なのでしょうか。
雨を降らせ、流れ星を降らせる。
ひんやりとした夜気と、青白い星の光…
ふいに開かれた幻想的な世界を思わせます。
なぜ「二晩」と具体的に示しているのか、読解にやや足を止められたようにも感じます。

 

[7605]杉山理紀さん

流れつくところに行こうわかるだろう、どんどん小さくなってくマリア

結句の「マリア」によって、一瞬にして違う輝きを見せた一首。
私は川を沈んだり浮いたりしながら流されていく、聖母マリアの像を思い浮かべました。
「マリア」の一語が最後に登場したことで、それまでの言葉がもっと奥の深い何か宗教的・象徴的なものに感じてきます。
「どんどん小さくなってく」には不安感を覚えるのですが、作中主体は流れつくだろうところまで行こうとしています。
そこに光を感じます。

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