042:映画

[22745]兵庫ユカさん

観たかった映画も終わり暮れ方をカシミヤ山羊の蹄で歩く

[18522]なかはられいこさん

映画から帰ってきたの新品の歯ブラシみたいな気分になって

「映画を観終わった後の気持ち」の比喩が興味深かった歌を二首。
[22745]
自分の足を「蹄」とたとえるのも面白かったのですが、それも「カシミア山羊」の蹄だという、その独自性に心惹かれました。
カシミアと聞くと、加工済みの織物をまず思い浮かべ、山羊であることを忘れていました。
私たちの生活と「カシミア山羊」との距離感の遠さが、この一首の核になっていると思います。


[18522]
こちらでは、「新品の歯ブラシみたいな気分」と表現されています。
替えたばかりの歯ブラシは、シャキッとしていて真っ直ぐで、口に入れると異質な感じがします。
作中主体は、包装を解かれた歯ブラシのような爽快な気持ちで、閉じられた映画館から出てきたのでしょう。
観てきたのはアクション映画だったのではないかな、と想像しました。

 

[20037]魚柳志野さん

幸せの喩のひとつとして差し出した板チョコ(一片)、フランス映画だ

「幸せの喩」として甘いお菓子が登場するのはよくあると思いますが、 それを板チョコのひとかけらに集約させているところに惹かれました。
四句まででいったん世界が閉じて、それから結句へ展開しています。
それまでは映画の中の場面だったのですね。
「フランス映画だ」、そのように言い切られてしまったら、そうだなと納得してしまいます。

 

[15548]ひぐらしひなつさん

帽子屋に黒い帽子を買うひとを無声映画の雨が濡らして

この一首自体が、映画そのもののように感じました。
まるで、読み手である私自身も、その映画の中に入り込んでしまったような緊張感を覚えます。
それは無声映画というものに感じる緊張感(私の個人的な)からかもしれませんが、一首に閉じ込められた世界の密度が濃いような。
「黒い帽子」は雨によって、ますます深く黒くなっているのでしょう。
音もなく降りしきる雨の線を想像しています。

 

[5036]深森未青さん

転生の痛みのごとく映画館本編のまぎは空白を持つ

確かに、映画館では予告が終わり、本編が始まる前に、数秒の間が生じますよね。
それを「転生の痛み」と言い表すとは。すごい。
転生…生まれ変わること。
私は、日常から切り離されて、映画の世界に入り込むことを表しているのかなと思いました。
他のどの感覚でもなく、「痛み」を選択したのが、この一首を特別なものにしています。

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