048:熱

[25908]夏己はづきさん

少しだけ魔法ができてこいびとにほのかな熱をふりかけている

「少しだけ」という謙虚さが、可愛らしい恋愛の空気を感じさせます。
しかもその魔法というのは、「こいびとにほのかな熱をふりかけ」ること。
決して、情熱的な高熱ではないのです。
安定した穏やかな恋なのだろうと想像させます。
第五句「こいびと」は漢字で表記したほうが、その後の「ほのか」が引き立つようにも感じられました。

 

[20650]加藤苑三さん

寝そべればいくらでもくれる(哀しみを)地熱のようにやさしい人だ。

これは「(哀しみを)」があるとないとでは、まったく歌の意味合いが変わってくる一首ですね。
「やさしい人だ」と言ったときの、作中主体の気持ちの温度が。
お題が詠みこまれている「地熱」という単語が、この一首にはぴったりと収まっているように思います。
普段は目に見えないけれど、内部でぼこぼこと煮えたぎっている真っ赤なマグマ。
性愛の歌と読むこともできるかなと思いました。

 

[15336]田丸まひるさん

こいびとの膝の裏から亜熱帯めいたにおいがこぼれたら夏

「亜熱帯めいたにおい」がまず衝撃的。
しかも、それが「膝の裏」の匂いだという。
少し倒錯的で魅力的な組み合わせです。
膝の裏の匂いというだけで、ふたりの親密さがうかがえます。
「亜熱帯」から「夏」へのイメージの流れが滑らかで、また、結句の鮮やかな切り上げ方が爽快です。

 

[11057]芳井奏さん

5分後に明日が来るような真夜中に一人寂しく解熱剤飲む

上句が情景をリアルにしています。
明日が来る「ような」…
多分、実際に0時5分前(つまり23時55分)なのではなく、作中主体の感覚として、 「5分後に明日が来るよう」な時間にいるのでしょう。
明日というのは決して、0時を指しているのではない。
ただ、一人「寂しく」は要らないような気がします。
真夜中に一人で解熱剤を飲む(誰も看病してくれる人はいない)、それだけで十分「寂しさ」は伝わってきます。

 

[11086]近藤かすみさん

本棚のすみの地図帳ひらいては熱帯雨林をあるく五月に

作中主体がこうして地図帳を開き、頭の中で世界旅行をするのは、多分、習慣になっているのだと思います。
「ひらいては」という言い回しがそのように感じさせます。
「五月」がもし他の月であったら、印象は随分と違ってきます。
熱帯雨林の旅を想像するのに、春秋でも冬でも、もちろん夏でもなく、五月を選択した必然性とは。
また、「本棚・地図帳・熱帯雨林・五月」以外をすべてひらがなで表記することによって、 これら4つの単語を引き立たせる効果が出ています。

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