051:痛

[23335]岡村知昭さん

結局は地球の上に立ち尽くし鎮痛剤の白を愛せり

「地球」という設定の大きさと、作中主体の手の中に収まる「鎮痛剤」との規模の差異が面白い一首です。
その人の人生において、もしくは世界情勢において、どんな大きな出来事があったとしても、 日常生活を生きていくしかない「どうしようもなさ」が、初句に表れているように思います。
視点が「鎮痛剤の白」へと集約していく様が美しく、読み手の心のうちにも、 鎮痛剤が体内で溶け出すように、白色が広がっていきます。
ラストの「愛せり」もうまく決まっています。

 

[21933]なかはられいこさん

痛いのはそこではなくてもうすこし右、オリオンの三つ星の下

「オリオンの三つ星の下」という設定が素敵ですね。
初句からその前までの言葉は、身体のどこか(または記憶のどこか)を指し示そうとしているのかな、 と思いながら読み進めていったのが、いきなり視点を宇宙へ引っ張られたという感じです。
こういう感覚は、短歌を読んでいてとても楽しいところです。
青い闇の中に浮かぶオリオンの白い光という、幻想的な情景を思い浮かべていたのですが、 身体から遥か彼方の星へ自らの痛みを投影させるということは、実はとても哀しい物語なのかもしれません。

 

[12499]篠田美也さん

指先を舐めて痛みをはぐらかす あめがやまないよるがあけない

作者が「はぐらかす」と言っているように、いくら傷口を舐めてみても、痛みがなくなることはないのです。
下句、否定の言葉が繰り返されることによって、作中主体の切実な思いが迫ってきます。
「指先を舐める」という行為の幼さと、下句のひらがな表記が、逆に作中主体の抱える痛みを際立たせていると思います。

 

[10605]天晴娘々さん

痛点は星の数ほどこの胸にあるから 明日、夜汽車に乗らう

「明日、夜汽車に乗らう」という呼びかけに、思わずうなずいて答えたくなる歌です。
私の中で広がったイメージは、アニメ『銀河鉄道999』でした。
痛みを「点」という言葉で表し、そこから「夜のとばりに散らばる白い点=星」へ、 さらに星空の下をどこまでも走っていく「夜汽車」へと連想が続いていきます。
たとえ夜汽車に乗り込んで日常から抜け出したとしても、きっと痛点を「星の数ほど」抱えた胸は癒えることはないだろうな、 というひんやりとした静かな余韻を感じました。

 

[9785]五十嵐きよみさん

そこらじゅう光まみれの八月に聴くシャンソンは痛々しくて

たまに聴くシャンソンはけだるくてアンニュイで、それが心地よかったりします。
しかしこの一首では、シャンソンは痛々しいと表現されています。
なぜか。それは、八月に聴いたから、でしょうか。
街も空も葉っぱも、夏の強い光に満たされる八月。
八月の季節とシャンソンは合わないということでしょうか。
(ちなみに私の中では、シャンソンもフランスも秋のイメージ)
光「まみれ」という言葉には、どこか不快感、とまでは言わないけれど、負の意味が付加されるような気がします。

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