052:部屋

[16164]村上きわみさん

この部屋のどこかでまわる桃色のフラフープ もう抜け出ておいで

とても好きな世界観です。
部屋のどこかで目に見えない(けれど桃色だということはわかっている)フラフープが回り続けているという。
異世界が日常にじわりと浸透してきているような感覚です。
そして、そのフラフープから「もう抜け出ておいで」と誰か(自分自身?)に声を掛けている。
「桃色のフラフープ」がドラえもんの道具の「通り抜けフープ」みたいなものなのかもしれない、 と思うと、なおさら心がふわふわしてきます。

 

[9971]五十嵐きよみさん

十匹の魚がはねる音(キーを打つ音)部屋はもう水びたし

ここでいう「十匹の魚」というのは、十本の指のことでしょう。
一読、ビジュアルが鮮やかに目に浮かび、視覚、聴覚、触覚、嗅覚に訴えかける歌になっています。
一行詩のように読んでいたのですが、数えてみると、きれいに57577音になっているのですね。
(キーを打つ音)はその直前を説明する語として挿入されていますが、 (カッコ)の前後で繰り広げられるファンタジックな世界を引き締める効果を持っているように思います。

 

[9920]遊木さん

白い部屋抜け出たところ白い部屋私のまわりにある白い部屋

最初と最後とちょうど真ん中に、同じ言葉を持ってくる方法が興味深いです。
このように繰り返されることで、「白い部屋」が強迫観念のように読み手側に迫ってきます。
部屋の四方の白壁がずんずんと狭まってくるような。
意味合いとしては、一度「白い部屋」から抜け出したのに、そこはまたしても「白い部屋」で、 どこまで行っても逃れることはできない迷路のような空間を、作中主体の精神状態として表しているのだと想像します。
音数としては57587になっていて、私個人はできるだけ定型に収めようとするほうなので、私だったら、 「私」を「我」か「僕」(もしくは「君」)にして整えるだろうと思います。
しかしこの一首の場合、「私のまわりにある/白い部屋」で切れるので、このように字余りのほうが、 作中主体の皮膚感覚を表現するには適しているのかもしれません。

 

[9190]みうらしんじさん

この部屋の壁に貼られたポスターときみの寝息に告げるさよなら

みうらさんはたまに、とてもロマンチックでストレートな恋愛の歌を詠われると感じました。
この一首も、まるで歌謡曲のような舞台をつくり出しています。
寝ている間にいなくなってしまうなんて。
恋人は、別れ話に泣き疲れて眠ってしまったのかもしれない。
「この部屋」にはふたりの思い出がふるふると溢れているのでしょう。
作中主体は、恋人の寝顔を見ることはせず、その「寝息」に、最後の言葉をかけているのです。

 

[12500]篠田美也さん

六月のあめでひかりを編み込めば部屋はしづかに発酵していく

とても美しい情景です。
部屋の空気(でしょうか)を「発酵していく」と捉える感性の鋭さ。
「六月のあめ」、「ひかり」、「編み込む」、「しづかに」…
どの一語も、この世界観を表現するのに替わることができないように思います。
作中主体は発酵していく部屋の中にいるのでしょうか。
それとも、部屋の外にいて、その変化を見ているのでしょうか。
気づいたときには、もうそこはそれまでとはまったく別の空間に感じられたのかもしれません。

<<                                      >>

001    011
002    012
003    013
004    014
005    015
006    016
007    017
008    018
009    019
010    020

021    031
022    032
023    033
024    034
025    035
026    036
027    037
028    038
029    039
030    040

041    051
042    052
043    053
044    054
045    055
046    056
047    057
048    058
049    059
050    060

061    071
062    072
063    073
064    074
065    075
066    076
067    077
068    078
069    079
070    080

081    091
082    092
083    093
084    094
085    095
086    096
087    097
088    098
089    099
090    100

back


© Umi Sato All Rights Reserved.