054:リスク

[11606]芳井奏さん

カレンダーめくり誰かの式日にアステリスクをいくつもつける

[8396]桜井凛香さん

迷ったらリスクの高いほう選ぶ最初に決めてそれから進む

「リスク」というお題を「アステリスク(*)」と詠み込んだいくつかの歌から、次の二首を選びました。


[11606]
自分の記念日ではなく、誰か―多分よく知らない誰か―の「式日」に印をつけることには、一体どんな必要性があるのでしょうか。
ペンのキャップを閉めた後、いくつもの*が赤く書き込まれたカレンダーが静かに壁にかけられているのを想像します。
「式日」の意味に具体性がないので(その分、たくさん*を書き込めるのかもしれませんが)、 何か「葬式」や「誕生日」などに特定したほうが、私の個人的な好みではあります。


[8396]
潔い意志に満ちた一首。
こうして生きていければいいなぁと思うのですが、実際は「リスクの高いほう」を選ぶのは、なかなか勇気がいることですよね。
それこそ、「最初に決めて」おかないと、選択肢を目の前にしまえば、より安全なほうを取ってしまいがちです。
「迷う→選ぶ→決める→進む」という動詞の重なりによって、文章のリズム感が生まれていると思います。

 

[11232]こはくさん

リスクごとちぎっては噛みちぎっては食べ飲み込んだころが未明だ

最後の「未明だ」が妙に可愛らしく感じられた歌です。
誰かとの関係(恋愛でしょうか)を「リスクごと受けてたつぞ」というような意思表明だと捉えました。
しっかりと飲み込んで消化してしまいたいという。
リズムとしては、
>リスクごと/ちぎっては噛み/ちぎっては食べ/飲み込んだ/ころが未明だ
と、57757になっています。
この変調が、私の感じた「妙な可愛らしさ」に繋がっているのかもしれません。

 

[15661]田丸まひるさん

フリスクを一箱全部ぶちまけて絶対かなしくない夜でした

ここにいるのは、床にぶちまけられたフリスクとそれを見ている作中主体だけという感じがします。
情景としては、ぶちまけられた後の静寂を思わせますが、「絶対」に強い動の感情が込められています。
「かなしくない」と言いながら、それは決して真実とは言い切れないのだ、という気持ち。
「絶対かなしくない」のではなく、作中主体にとっては「絶対かなしく」なってはいけない夜だったのです。

 

[5698]深森未青さん

春土手に酔へるリスクはよし水に果つるとしても桜はさくら

リズムが心地よい一首。
「水に果つる」というのは、土手で花見をして、酔って川に落ち、溺死する、ことでしょうか。
それでも作者は、そのリスクがあっても「よし」としています。
もし春の川にゆらゆらと冷たい背中が浮かんでいても、桜はその淡紅色の花びらを川面に散らせてくれる。
恐ろしく、美しい、春の夜の魔性をかいま見た気持ちになります。

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