060:とかげ

[24610]荻原裕幸さん

抱擁の力をこめてゐるうちにとかげみたいなひかりが逃げた

「とかげみたいなひかり」という表現にはっとさせられました。
とかげみたいな影、というほうが連想しやすいのかもしれません。
そこで、「ひかり」が出てきたので、まさに目の前に光が広がったような新鮮な感覚を覚えました。
瞬間、抱擁していた人が「とかげみたいなひかり」に変化していた。
そしてあっという間に風の中に溶けて(逃げて)いってしまった。
そんな情景を思い浮かべました。
一首の漢字とひらがなのバランスも最適だと思います。

 

[18735]春村蓬さん

ジャンケンに強くはないが風の日もとかげは星に貼り付いてゐる

ユーモラスなのだけど、幻想的で美しい歌だなぁと思いました。
初句から「とかげは」までを読み進めていったとき、 とかげが貼り付くのは「窓」だろうと想像していたので、 「星」には驚かされました。
風の日、木々の葉が揺れる音、夜の匂い、星空、そこに浮かぶとかげの影―
「ジャンケンに強くはない」のは、果たして「とかげ」なのでしょうか。
イメージの飛躍が大きいのだけれど、どうしてか不自然には感じさせない、不思議な魅力のある一首です。

 

[16172]村上きわみさん

望まれて壊すのぞまれてはこわす とかげのようにひくく構えて

上句を読み進めた後に、下句でガツンと頭を打たれたような感覚を覚えました。
魅力的なフレーズですね、とかげのように低く構える。
とかげは生態上、あの低さにいるべくしているように思っていたのが、実は彼らもあえて「ひくく構えて」いたのかもしれません。
ただ、句跨りのせいか、「望まれて壊す」の反復はそれほど効果をもたらしていないように感じました。
何を「望まれて壊す」のかを明記すると、また違った味わいの歌になったと思います。

 

[2858]河村壽仁さん

忘れられた園丁小屋の前の薔薇 茂みの下のとかげは動かぬ

まるで絵本の1ページのような一首。
「薔薇の茂みの下」という限られた小さな空間の描写なのですが、それがとても美しい。
薔薇の花やその香り、とかげのしっぽが地面へ落とす曲線がつくり出す美しさでしょうか。
河村さんは、独自の世界を短歌で提示してくれます。
相聞歌に偏っていないところも見習いたいです。
ただ、初句がもう少し煮詰められる余白を持っていると思いました。

 

[12326]近藤かすみさん

身のうらのやはらかき肌を玻瑠窓にゆるすとかげよALL YOU NEED IS LOVE(愛こそはすべて)

一首全体を通して、不思議な愛らしさを感じました。
とかげの「身のうらのやはらかき肌」にも、その肌を「玻瑠窓にゆるす」姿にも、「ALL YOU NEED IS LOVE」という台詞にも。
奇妙で愛らしい世界が生まれています。
この世界をつくるには、「とかげ」の形態や質感が必要で、それは他のどの生物にも 置き換えられないのです。

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