063:雷

[23132]久保寛容さん

雷光に幼き僕があらわれてパジャマの柄だけ鮮やかである

布団に入って、うとうとし始めたときでしょうか。
電気を消した部屋に、一瞬、パッと雷光が満ちた。
数秒後、わりと近くに落ちたのではないかと思われるような大きな雷の音が鳴り響き、 その音を背負ってきたかのように、光の中に「幼き僕」が現れる。
幻想や夢のような、ちょっとホラーのような場面を詠っています。
このとき、鮮やかだったのが「僕」の着ていた「パジャマの柄だけ」だというのは、 顔の表情は逆光で見えていなかったからでしょうか。
ちょっとした言葉で場面の詳細を想像させるとともに、「パジャマの柄」の鮮やかさと 雷のイメージを結びつける効果もあると思います。

 

[10922]我妻俊樹さん

いないので肘掛けに置く夏帽子たっぷり聞いた雷のあと

時間と空間の提示の仕方がいいですね。
何が「いない」のか、主語を明らかにしないことによって、読み手の心に空白を生み出したまま物語は進みます。
雷が「聞こえる」のではなく、意思を持って「聞いた」と表現しているところもキーポイントになっています。
「肘掛け」と「夏帽子」、そして「雷」というそれぞれの名詞の選択が的確だと思います。
夏の思い出とともに、「たっぷり」によって逆に強調されている何らかの喪失感が底辺に流れているようです。

 

[7067]斉藤そよさん

劇的に雷が来て守るべきものの順位をあきらかにする

第三句から結句にかけての言葉の距離感が好きです。
実際に「守るべきものの順位」を考えたのは作中主体自身なのかもしれませんが、 私は、擬人化された雷神様が家に「劇的に」やってきて、「あなたの守るべきものの順位はこうだぞ」 と教えてくれているような場面を想像しました。
それだけ言って、雷神様はまたすさまじい雷の音とともにビューンッと去っていってしまい、 その後には、唖然とした作中主体と、フローリングの上に白く立ち上がっている「守るべきものの順位」リストが一枚残されていた―
そんな物語が頭の中で広がりました。

 

[13514]森妙子さん

細切りのキャベツのやうな日常に句読点のごと春雷を聞く

「細切りのキャベツのやうな日常」という比喩が妙。
上手な人のキャベツの千切りと、下手な人のそれとでは、まったく形が違うけれど、どちらも日常の様子を思わせます。
前者は、毎日変わらない幅で連綿と続いているような生活。
後者は、ところどころ狭くなったり広くなったりしている歪な形。
春雷が句読点だというのは、雷の音が聞こえることによって、そんな日常がふ、と途切れたような感じを受けるからでしょう。
そんな春の日。
キャベツの細切りをしている動作そのものが、人が日常を生きている姿を表しているようです。

 

[11770]杉山理紀さん

雷がモザイクにする灰色の空よ突然泣き出さないで

呼びかけるような口語体の結句に、心を動かされました。
雷によって、空がモザイクになるという表現が面白いです。
「突然泣き出さないで」が、今にも激しい雨が降り出しそうな空にだけでなく、 今目の前にいるかもしれない、誰かに対して言っているように感じました。
杉山さんの短歌は、世界の切り口がソフトなのに、はっとさせるような視点の新鮮さがあり、とても好きです。

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