064:イニシャル

[21682]魚柳志野さん

否定したいものがありますイニシャルをブロック体で書き出しておく

「ブロック体」という限定に惹かれました。
そこに、より堅固な否定の意思を読み解くことができると思います。
イニシャルは人名かと思われるのですが、人だけでなく、 作中主体を取り囲む世界全体に関わるものすべての記号化(=イニシャル)のように感じました。
書き出して「おく」という表現からは、ただ書き出すのではなく、その後に何かが起こりそうな感覚を覚えます。
記したブロック体のイニシャルが、端から順番にドドンッと紙から浮かび上がり、部屋の中を飛び回る様子を想像しました。

 

[20379]村上きわみさん

イニシャルのかたちに抜いた焼き菓子を焚火にくべてお別れします

「焚火にくべる」という言葉選びが味わい深い一首です。
イニシャルビスケット(クッキー)を詠んだ歌はいくつかあったのですが、詩的なクリアさではこの歌にもっとも惹かれました。
一度焼かれた菓子を、再び焚火にくべてしまうという行為は、徹底的な別れの意思を象徴しているようです。
「焚火」から、秋の日の庭を舞台としてイメージしました。
小さく薄いイニシャル型の焼き菓子を、ひとつずつ指先につまんで、次から次へと炎の中に放り込む―
穏やかな陽の中での、鬼気迫る儀式なのかもしれません。

 

[10618]天晴娘々さん

イニシャルはひと欠け残る白い骨 夜明けの前に爪が切りたい

上句と下句のイメージの繋がり、またはギャップがこの歌の魅力になっています。
まず上句の、イニシャル=「白い骨」という比喩。
その人物の一種の象徴であるイニシャルが死後の骨になる、という着眼点が興味深いです。
骨が「ひと欠け」だけ残っている状況とはどういうことなのかはわからないのですが、 陶器の入れ物の中から、カラコロと乾いた音が聞こえるようです。
そして骨から、爪への連想。
「夜明け前」という設定と同様に、生と死の境界線を思わせます。

 

[17007]ほそかわゆーすけさん

イニシャルで認識している君のこと。心の中まで真っ赤な俺だ。

とてもストレートな一首。
イニシャルですら、「君」を表す記号になっている。
そして「認識」した途端、「心の中まで真っ赤」になる。
なんて素直で、熱烈な愛の告白でしょう。
ほそかわさんの相聞歌は、別れにしても、このように想いを吐露しているときも、真っ直ぐに強く、 自分の気持ちを歌にしていると思います。

 

[10734]村本希理子さん

イニシャルのやうな名前の銀行に口座開きてはつなつの鬱

イニシャルとは、何か「抽象的なもの」のメタファーではないでしょうか。
初夏のある日の鬱々とした気持ちが、「イニシャルのやうな名前の銀行」というどこか頼りなげな 曖昧なフレーズによって強調されています。
また、「はつなつの鬱」と、「つ」音が重なるリズムがいいです。
初夏という季節の選択が、この一首には最も合っているように感じられました。

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