066:鋼

[18939]石川美南さん

鉄鋼業地域に赤き色を塗りその後立ち上がるハムレット

舞台劇のト書きのような一首。
鉄鋼業地域にいるハムレット、という設定が独創的ですね。
ハムレットの持つ復讐心と苦悩が「赤き色」に象徴されているようです。
地図上の鉄鋼業地域に色を塗ったのでしょうか。
私は、実際に無人の鉄鋼業地域に赴いたハムレットが、塀という塀、壁という壁に、赤いペンキを塗って歩いている姿を想像しました。
彼が立ち上がり去った後の、静かな様子まで。
現代に設定を移した、新しいハムレット劇のようです。
「塗る」のではなく、ペンキを思いっきり壁にぶちまけるくらいの激しさで、この舞台をぜひ観てみたいと思います。

 

[16539]渡辺百絵さん

鋼色したシャーペンで書いている遺書らしくない字で書いている

遺書らしい字のあり方(書体・筆で書かれている等)というのを、誰しもイメージで持っていると思います。
だからこそ、「遺書らしくない字」もまた、イメージできる。
それは、シャーペンで書かれた遺書です。
「鋼」という言葉と、「遺書」に込められるべき人の想いとの距離感が見て取れます。
「書いている」を繰り返すことによって、事実を肉声で述べている感覚が生まれていると思います。

 

[16115]しんくわさん

格闘技を習うことには反対しません が 「市長 鋼の鎧はなんなのですか?」

この前のお題「065:水色」で、縄跳びをしていたのと多分同じ市長さんでしょう。
そりゃあ、格闘技を習うことと鋼の鎧を身につけることの因果関係は不明ですよね。
私でも市長に聞いてしまいます、「なんなのですか?」と。
その世界観(背後に、この市長が治める市が存在しているのだという)の魅力に引き込まれます。
「が」の前後に一字空けがあることより、台詞の「時間のため」が表現されています。
このような一字空けの多用(3箇所)と大幅な破調により、短歌の一般的な枠とは 違うところにある歌と言えると思います。

 

[21650]紅茶さん

鋼より強いものなどいくらでもあるからあたしはくじけてもいい。

結句まで読み進めたときに「おお」と、感動というか感心をした一首。
「そうか、くじけてもいいのだ」と。
それが「赦し」ではないなと思ったのは、潔い言い切りの口調が、優しさではなく清々しさを与えてくれるからなのでしょう。
「くじけてもいい」と言う根拠である、「鋼より強いものなどいくらでもあるから」がまた妙に説得力があるのも、 この一首の魅力だと思います。

 

[4257]畠山拓郎さん

「さよなら」とつぶやくようにかんたんに鋼のごとき表情をして

「さよなら」とつぶやくことは簡単なことなのか、という新たな発見をした一首。
私は、歩きながらの独り言だと想像しました。
自分の気持ちを確かめるために。
または、無意識のうちに口から出てきて、自分自身でも驚いた一言なのかもしれません。
上句がすべてひらがな表記なのが、かえって「鋼のごとき表情」の硬さや冷たさを引き立たせます。

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