070:にせもの

[23685]岡村知昭さん

にせものをじょうずにつくるいもうとのおかげで北極点におります

「にせものをつくる」ということはどういうことなのか。
「いもうと」が何をした「おかげで」、どうして作中作者が「北極点」に来ることになったのか。
文脈のねじれが面白く、これらの謎を解明することはできないまま、一首の不思議な世界観に引き込まれます。
他のすべての言葉がひらがな表記で書かれている分、「北極点」への求心力が強まっていると思います。

 

[22951]加藤苑三さん

毒々しい色の砂糖でつくられたにせものサンタ。ウソはかわいい。

結句「ウソはかわいい」の衝撃。
そうか、嘘はかわいいのか。うん、そうなのかもしれないな。
砂糖菓子のサンタさんを越えて、そう思わされました。
「毒々しい色」で作られる加工食品、という表現はよく耳にする言葉ではあるのですが、 この一首においては、「毒」と「砂糖」、「サンタ」と「ウソ」、「にせもの」と「かわいい」が、 それぞれ漢字・ひらがな・カタカナ表記で対になって目に入り、視覚的に心地よい構成になっています。

 

[16701]田丸まひる

にせものも嘘もわたしを満たすならおんなじ だけど喉が痛いの

読み手の身体(喉)にも痛覚を共感させる歌です。
喉がヒリヒリする感覚が歌の内側から流れ込んでくるイメージ。
文脈から読み解けば、「にせもの」と「嘘」は本来異なっていると言っているのだと思います。
けれど、「わたしを満たす」のならば、それらは同じものなのだ、と。
偽物や嘘に「満たされる」という表現は、実はとても激しいものです。
それを「喉が痛い」と逸らすことによって、一首の詩性を強化する効果が生まれています。

 

[13328]水須ゆき子さん

どこまでがにせものだろう先割れの爪にすりこむ桃の花びら

現実ではないだろうな、と思いながらも、爪に花びらをすり込むという行為に肉感的なリアルさを感じます。
「桃」だから、でしょうか。
桃の実の表面の、少し毛羽立った手触りだとか色だとかが、「先割れの爪」の痛々しさと相まって、生々しさを呼び起こすのかもしれません。
「どこまでがにせものだろう」という、存在価値まで掘り下げることができそうな問いかけにはドキリとさせられます。

 

[7771]村田まゆ子さん

折れ線のグラフのようにふりそそぐあなたの愛はにせものでした

折れ線グラフの、あの線の鋭さや上下の動きの激しさ(緩い変化もあるだろうけど)…
それが「あなたの愛」を表すものであったなら、確かに「にせもの」のように感じます。
「にせもの」のひらがな表記を際立たせるために、「ふりそそぐ」は漢字で「降り注ぐ」でもよかったようにも思います。
与えた愛がにせものだ、と言われた「あなた」は一体どう思っているのか、気になりますが、 本物か偽物か判断するのは、本人であっても難しいことなのかもしれません。

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