071:追

[25099]荻原裕幸さん

追伸のそこだけやけに繊細なタッチで雪が降らせてあつた

手紙の中に「雪が降らせて」いる、という表現のなんと美しいこと。
そんな手紙をもらえたら、うっとりしてしまいます。
「繊細なタッチ」という言葉は、筆跡と雪の降る様子の両方にかかっていると思います。
追伸には一体どんなことが書かれていたのでしょうか。
口調から、この一首は「手紙を受け取った者」ではなく、目撃者の視点から詠われているように感じました。

 

[20909]ひぐらしひなつさん

追伸はついに書かれず煙草屋の女主人が午後の欠伸を

フランス映画のワンシーンのような歌。
追伸には、実は本文よりもずっと大切なことを書きたかったのかもしれません。
レターを書いている最中は、自分と文字だけの世界にいたのが、 天動説のように周囲の人々と彼らの世界はずっと、自分とは無関係に動き続けていたのだ―
そのことに気づかせてくれる歌だと思います。

 

[19337]佐原みつるさん

台風に追われて帰る道端の電信柱に名前を付ける

マンガのような、少しコミカルで不思議なノスタルジーを感じさせる一首です。
私は作中主体を小学生(高学年)と設定して読みました。
台風の接近によって、学校が午前授業で終わった日のシーン。
誰もが経験したことがあるのではないでしょうか。
言葉の選び方にセンスが光っていて、場面の喚起性の高さに結びついています。
台風の日の住宅街の雰囲気だとか、風の匂いだとか、どこか「非日常」に ワクワクしていた子ども時代の自分だとかを呼び起こされました。

 

[19078]渡辺百絵さん

追伸のほうが長めに書いてある手紙のような水面のひかり

とても魅力的な直喩ですね。
「追伸のほうが長めに書いてある手紙」は意味深で読み手の興味をぐっと引きます。
そしてそんな手紙のようなものが、「水面のひかり」であると。
手紙を光(射し込む光)の比喩として用いた歌は他にもいくつかありますが、この一首では、「水面」という場面設定が新鮮です。
風、水面の揺れによって、止まることなく移ろいゆく光。
それが「追伸のほうが長めに書いてある手紙」と本質をともにしているのだと言われると、ますます興味深いですね。

 

[12928]近藤かすみさん

追ひかけて来るもののなき夏の終て ぎりりと柱時計の捩子巻く

ネジ巻き式の柱時計のある家、というのが懐古的な舞台を演出しています。
もしかして、これは心理情景を表しているのかなとも思いますが。
柱時計の置いてある廊下や、窓から差し込む薄い光、家を取り囲むような庭の草、そこを通る風…などを感じ取りました。
作中主体は、本当は「追ひかけて来るもの」がいてほしかったのです。
そしてそれは、夏でないと意味がなかった。
「夏の終て」というのは、季節の移ろいというだけでなく、 「もっと重要な何かがあるはずだった期間」のタイムリミットなのかもしれません。
それを自分自身に言い聞かせるために、柱時計のネジを巻きなおす。
「ぎりりと」が深く響きます。

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