072:海老

[22748]田中槐さん

おもむろに第二関節くっとして、海老の背わたをしゅるしゅると抜く

「おもむろに」というやや厳かな導入の仕方が、一首の世界観を構築していて、 「海老の背わた」以外の何かを「しゅるしゅると抜」いているような感じを受けます。
官能的なイメージが背後に流れているとも見ることもできるのではないでしょうか。
第三句目「くっとして」の「く」が、「第二関節」を曲げた状態の指の描写にも繋がっていると思います。
読み手の視点を、指からその手の中にある海老へと自然に誘導しているところが巧みです。

 

[14646]新田瑛さん

    夜 ちいさなちいさな海老でいっぱいの海はひかってみえるのだそうです

うーむ、そうなのか。
これは事実(海老漁の漁師の情報とか)を歌にしているのでしょうか。
ひらがなと漢字のバランスの妙が、一首を何かおとぎ話のような世界に変容させていると思います。
夜空の下、「ちいさなちいさな海老でいっぱいの海」が月の光か船のライトかを 反射させてキラキラと光っている情景が、幻想的に浮かんできます。
結句「みえるのだそうです」が9音となっており、ここは「みえるそうです」などにして 音数を定型に合わせたほうがいいように思いますが、あえて字余りを選択したことに作者の意図があるのかもしれません。

 

[11020]五十嵐きよみさん

海老になってしまったふたりどうやって真正面から抱き合えばいい

このお題から生まれた短歌の中で、もっとも胸がキュンとなった一首。
「海老になる」というのは何らかの比喩なのかもしれませんが、一読、 髭のピュンと伸びた二匹の海老が向かい合っている絵を想像して、その愛らしさにやられました。
海老反りになっている体では、お互いを抱き締めることはできない。
「真正面から」という言葉に、ふたりの愛情の真っ直ぐさを思い、私はますます胸がキュンとなるのです。

 

[11827]みうらしんじさん

海老をむく手つきでぼくにふれながら上目づかいににっこり笑う

ここにいる「ぼく」はとても素直で純粋な人なのかな。
恋する彼女に触れられてうろたえている男の人を想像しました。
「海老をむく手つき」に目をつけたのが素晴らしい。
茹で上がった海老の身の淡いピンク色まで思い浮かべました。
ただ、下句「上目づかいに」笑うというのは常套句のようにイメージが固定されてしまうので、 何か別の言葉で、彼女の妖しい魅力を表現してもらいたいと思いました。

 

[7656]斉藤そよさん

甘海老のさび抜きが好き透けそうで透けない音やかんしょくが好き

甘海老の表現の仕方に、思わず心引かれた一首。
「透けそうで透けない音」…色ではなく、音。
そして、ひらがな表記の「かんしょく」
まさにまさに、とうなずいてしまいます。
見た目の写実ではなく、食材として噛んだときの感覚が、本当にうまく言葉に出会えたという感じがします。
ただ、二句までがあまりに屈託なく言われているように思いました。
読み手の入り込む場所がない、という気持ちになります。

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