076:降

[23039]紅茶硝子さん

一番に「降ります」ボタンを押したがる子供のように電話を鳴らす。

恋愛をしたことのある人ならば、誰もが共感する歌ではないでしょうか。
「〜子供のように」という直喩は、心情と仕草(「降ります」ボタンを押す仕草と、 電話のプッシュホンを押す仕草)の両方にかかっていると思います。
子ども時代に見えていた世界って、今思うと本当に不思議ですね。
「一番に」ボタンを押すことができたら勝ちで、誰かに先に押されてしまったら負け、 と私も小さい頃、自分のルールをつくってバスに乗っていた気がします。
なぜ子供時代は、こうした些細な行為にすら勝敗をつくっていたのか。
けれど案外、大人になっても変わっていないのかもしれませんね。

 

[20391]村上きわみさん

豪勢に降っているからなんなのかわからなかった(雨だったのか)

「雨」に対する、新鮮な視点を教えてくれた一首。
確かに夏の夕方など、とてつもなく「豪勢に降る」雨には遭遇しますが、 それが豪勢すぎて「なんなのかわからなかった」という事態は予想したことがありませんでした。
結句まで読み終わった後、どしゃぶり雨が街にあたる音だとか、濡れたアスファルトの匂いだとかが、 心の中にぶわーっと広がってきました。
(カッコ)使いが文脈にもたらす作用についてはまだ自分の中でうまくまとめきれていないのですが ―この歌では、(カッコ)内も外も作中主体の気持ち・感想という点では同位置―、 もしここが(カッコ)ではなく一字空けだった場合、受ける印象はやはり違うものになると思います。

 

[20340]石川美南さん

犯人がこの中にゐるわけでなくエレベーターは地階へ降りぬ

日常生活の中でふと入り込んでしまった奇妙な空間。
まるで、物語の世界のような時間の流れ方。
私は読書後、よくこのような感覚を覚えることがあります。
街を歩きながら、電車に揺られながら、まだ本の世界を引きずったまま呼吸をしている感じ。
もしかしたら、作中主体も、前の晩ふとんにくるまって推理小説を読んでいたのかもしれません。
「もしこの中に犯人がいたら…」と想像をする舞台として、閉塞感を煽る「エレベーター」はまさに最適の選択だと思います。

 

[7829]斉藤そよさん

まんなかにきらきら降つてきたひかり名づけてはだめそつとみるだけ

この世界観がとても好きです。
ひらがなの多用と、少したどたどしい言い方が、日常とは別世界の神秘的な空間を作り出しています。
「降つて」「そつと」と、古語表記されているのも視覚的効果をもたらしていると思います。
一首自体が、降ってきた一筋の光のよう。きらきら。

 

[6471]春畑茜さん

ほそく降る四月の雨よほんとうのことは誰にも告げ得ぬままに

四月の雨は、そう「ほそく降る」のですね。
この一語の発見で、降っている雨の状態だけでなく、そのときの空気の匂いや皮膚に触れる感覚までも思い起こします。
観察眼の鋭さと、上句から下句へのイメージ転換が鮮やかです。
ただ、全体の雰囲気と比べて、結句が固いかなという気がしました。

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