078:洋

[25852]星川郁乃さん

どうしてもわかりあえないそのひとは太平洋側育ちなのです

「太平洋側育ち」と「日本海(でしょうか)側育ち」で、または「内陸育ち」とでは、一体、人の性格にどんな違いが生まれるのか。
わからないのに、この歌を読んだときは「うん、きっとそうに違いないのだろうなぁ」と思わず賛同してしまいました。
作中主体には、こう言い切らなくてはならない事情が「そのひと」との間にあったのでしょう。
「どうしてもわかりあえない」理由を「太平洋側育ち」だからという点に求める他は見当たらなかったのかもしれません。
そこに私は、作中主体の可愛らしさを感じました。

 

[22990]魚柳志野さん

剥がされた洋ナシの皮がふつふつと呼吸をはじめるテーブルの上

奇妙で不思議な光景です。
怪談話にも通じる世界観を感じました。
「ふつふつ」という副詞が、本来「呼吸」をするはずのないものの生命感をうまく表現していると思います。
また、「(皮を)剥がされた」と「洋ナシ」の視点から捉えたことにより、さらにその生命感(擬人化)を強化しているようです。
結句の締め方が、一首の安定感を生んでいて巧みです。

 

[7830]斉藤そよさん

東洋の刺繍の似合うひとでした小箱に眠るすこやかなひと

斉藤そよさんの歌はおとぎ話の世界のようで、いつも読んでいて優しい気持ちにさせてくれます。
第三句目「でした」と過去形であることと、「小箱に眠る」という表現から、 この一首は追悼の歌と捉えることができるのかもしれません。
けれど私は「小箱」から「すこやかなひと=小人や妖精」と読みました。
小箱のふたをそっと開ければ、そこには「東洋の刺繍」の入った寝巻きを着て、すやすやと寝息を立てる小人の姿が。
そんな愛らしい情景を思い浮かべました。
また、「東洋の刺繍」の字面には、シルクの滑らかさや布地の白色、色とりどりの刺繍糸、 草花を模した細やかな文様のイメージが込められていると思います。

 

[6851]春畑茜さん

そして春。西洋軒にゆうぐれを待ちいる皿や野菜や魚や

童話の世界のようなファンタジックな歌です。
大小の陶器のお皿や野菜や魚たちが、意思を持って「ゆうぐれ」を待っているような世界。
海に面した小さなレストランを想像します。
夕暮れ時は、きっと水面がキラキラと輝いて綺麗なのでしょう。
(「せいようけん」と聞くと、「精養軒」を思い浮かべますね。)
初句が魅力的で、思わず歌の中に引き込まれる導入になっています。

 

[14677]大辻隆弘さん

洋梨のいびつな翳の輪郭をなぞつて濡れていつた指さき

なんて官能的な一首でしょう。
洋梨のフォルムや食感やたたずまいは、確かに女性的。
そして、確かに翳(つまりは表面)はいびつで、そのいびつさが妙に生々しさを感じさせます。
丁寧な描写によって、まるで今、自分がその現場に居合わせているような感覚になり、 そのまま耽美な世界に引き込まれていくようです。

<<                                      >>

001    011
002    012
003    013
004    014
005    015
006    016
007    017
008    018
009    019
010    020

021    031
022    032
023    033
024    034
025    035
026    036
027    037
028    038
029    039
030    040

041    051
042    052
043    053
044    054
045    055
046    056
047    057
048    058
049    059
050    060

061    071
062    072
063    073
064    074
065    075
066    076
067    077
068    078
069    079
070    080

081    091
082    092
083    093
084    094
085    095
086    096
087    097
088    098
089    099
090    100

back


© Umi Sato All Rights Reserved.