080:縫い目

[19964]杉山理紀さん

明け方の空に青さを滲ませてふたりしずかに縫い目を歩く

とても「しずか」で美しい情景が詠われています。
「縫い目を歩く」という表現が巧みですね。
危ういのだけど、規則正しい一本の線。
第三句目「滲ませて」と他動詞を用いているところから、空が自然に白から青色に移ろっているのではなく、 ふたりの気持ちが心象としての空の青さを強めていっているのだ、というように読み解くことができると思います。

 

[22379]なかはられいこさん

うつくしい縫い目を持ったこいびとがあけがたに来てわたしをほどく

性愛の歌と読みました。
結句「わたしをほどく」を「身体を解く」と捉えれば、こうした表現はわりと一般的に使われているように思います。
けれど、その「わたしをほどく」恋人にも解かれるべき縫い目がある。
ふたりの関係性の繊細さや危うさを表現していると思います。
「あけがた」という時間帯も、夜と朝の境界線のあやふやさを表していて、一首の世界観の設定に効果をもたらしています。

 

[21515]しんくわさん

兄の顔にきっちり縫い目が浮き上がりそれはひどいひどい死球で

お兄様!と、思わず叫んでしまいそうになりました。
結句を読むまで気づきませんでしたよ、縫い目の正体には。
マンガ的で愉快な一首。縫い目は痛々しいのですけど。
ちなみに私は、『巨人の星』を連想しました。
しんくわさんの短歌にはしばしば、とても魅力的なキャラクターが登場して、読者を楽しませてくれます。
言わば、エンターテインメント短歌なのだと思います。

 

[19890]キタダヒロヒコさん

プーさんの縫ひ目をほどく。プーさんの手術は毎回はちみつまみれ
手術=オペ

ブラックユーモアを感じさせる一首。
私はプーさんを「愛された子ども」の象徴のように思っているのですけど、そのプーさんの「縫ひ目をほどく」手術は、やはり少し怖い。
「毎回はちみつまみれ」になってしまうのは、プーさんの中身には蜂蜜がぎっしり詰まっているということでしょうか。
プーさんならありうる。
他人の蜂蜜にまで節操なく手を出すような熊なら。
手術を行っている医師(なのかな?)もまた、「愛された子ども」のような気がします。

 

[13978]篠田美也さん

そのやうな夜たよりなく痛むだらうブラックジャックの顔の縫ひ目は

ブラック・ジャック!黒男さん!
「そのやうな夜」とはどんな夜なのでしょうか。
母親のことを思い出て、父親に対する憎しみを新たにしているのか…
それともオペに失敗して、本間先生の言葉が頭の中に甦ってきたりしているのか…
夜中にトイレに起きたピノコは、そんな先生の寂しそうな背中を見て心配したりするのか…
などと、様々な想像が膨らみます。
2004年秋、祝アニメ化。
その広告コピーになりそうな、味わい深い一首。

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