083:皮

[24466]塩谷風月さん

きみの皮膚は透んだ水だね静脈を人差し指でそっと辿れば

その情景を想像すると、ドキリとしますね。
皮膚の下に流れる血ではなく、皮膚そのものを「透んだ水」と表現しています。
「澄んだ」ではなく、あえて実際にこうした読み方はしない、「透んだ」を選択したところもポイントだと思います。
まるで「きみの皮膚」から「静脈」が透き通って見える、というようにも思わせます。
作中主体と「きみ」との間に流れる、息苦しくなるほどの濃密な空気に、思わず読み手の心も飲み込まれていくのです。

 

[23865]魚柳志野さん

秋鮭の皮が茶碗にこびりつきしずかに泣いているいもうと

場面の静けさが、読み手の側にも流れ込んでくるような、空気感のある一首です。
「いもうと」は一人きりで泣いているのでしょうか。
作中主体と「いもうと」が幼い頃から長年家にあるような、茶色く四角いダイニングテーブルを想像しました。
「秋鮭の皮がこびりついている茶碗」から、その茶碗を手に持ちながら泣いている「いもうと」へ、 カメラがアングルを変えるように、読み手の視点を移動させます。
その移動の間に、人は空間の奥行きだとか物語性だとかを見るのだと思います。

 

[21342]村上きわみさん

古書店のうすくらがりにひとすじの深き傷もつ羊皮紙よあれ

映像の喚起性が高い一首。
ちょうど映画『姑獲鳥の夏』(原作:京極夏彦)を観たばかりなので、京極堂の古本屋を思い浮かべました。
差し込む薄い光の中に、ほわほわと浮かぶ塵まで見えてくるようです。
漢字での表記を「古書店」「深き傷」「羊皮紙」に限ったことによって、それぞれの単語の存在感が強められているように思います。

 

[13461]こはくさん

鍵穴という鍵穴にことごとく脱皮したての夏の太陽

詩的で、スピード感のある歌です。
下句「夏の太陽が脱皮する」という表現の、歌謡曲の歌詞のような印象が、このスピード感に繋がっているのかもしれません。
「脱皮したて」ということは、太陽はさらに眩しくさらに熱く激しく、空から街を照らしているのでしょう。
そんな太陽の光が「鍵穴という鍵穴にことごとく」射し込むという。
「鍵穴」に着目した点が、この一首のまさにキーになっています。
太陽の熱で、鍵穴は溶け出してしまうかもしれない、そんな想像も広がりました。

 

[17368]冨樫由美子さん

精神科皮膚科眼科の領収書たいせつに溜めこんで深秋

静かな危うさと狂気を感じさせる一首。
精神科と皮膚科と眼科に同時期に通院し、その領収書を必要以上に「たいせつに」保管している。
そんな状況を想定して読みました。
最後の「深秋」に向かって、きれいに収斂していっています。
ただ、体言止めが重なるとリズムが悪くなるように思います。

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