091:埋

[25958]久野はすみさん

埋められたボタン電池のとろとろと溶け出す 悪い夢を見たのね

人間の身体の中に、「ボタン電池」が埋め込まれていると読みました。
街中のすべての人の皮膚の下に、ひとつずつ埋められている小さなボタン電池。
それが「とろとろと溶け出す」というのです。
銀色のような黒色のような、ドロリとした液体が皮膚を内側から押し上げる様子を思い浮かべました。
その人のボタン電池が寿命を迎えたことを伝える装置として、悪夢が発生するのかもしれません。
映画『マトリックス』の世界を連想しました。

 

[25807]青山みのりさん

ひと粒の種を蒔くたび埋葬の予行練習しているようで

その視点の鋭さに衝撃を受けた一首。
生命を誕生させる行為としての「種蒔き」が、「埋葬の予行練習」であるという。
生と死という相反する概念が、実は表裏一体なのかもしれない、と気づかせる歌です。
人は生きてきて、何人の人の埋葬を経験するのでしょうか。
埋葬には「予行練習」(心構えの?)が必要なのだ、と無意識に作中主体は知っているのかもしれません。

 

[22799]なかはられいこさん

紫陽花の根元に埋める父さんに青い付箋を貼っておきます

初夏の風が吹く不思議な世界が広がります。
雨上がりの紫陽花の香りを想像します。
死んだ父の体を「紫陽花の根元」である土中に埋める、という内容でしょうか。
しかも、その「父さん」に「青い付箋」を貼っておくという。
なぜ付箋を貼る必要があるのか、どんな印なのか。
「青色」という指定が、前記の紫陽花の花の色にもイメージがかかっています。
色彩豊かな情景を詠っているので、ホラー色をそれほど感じさせない一首となっています。

 

[20168]田丸まひるさん

あと少しだけぎゅっとしてキスをしてそれから埋めてもらえませんか

何を埋めるのか、目的語をどこに設定するかがこの歌のキーになると思います。
私は、「作中主体の身体」だと考えました。
これは死者の言葉なのではないか、と。
人の死に臨んで、残された者はもちろん、亡くなったその人もまた、ひどく心を痛めているに違いないです。
愛する人たちをこんなにも悲しませてしまう。
なので、「あと少しだけぎゅっとしてキスを」することは、作中主体の願望というだけではなく、 残していってしまう人に向けての彼(彼女)の最後の優しいわがままなのかもしれない。
そう思うと、本当に切なくて胸がキュンとさせる歌ですね。

 

[12771]五十嵐きよみさん

捨てられたサンダルはもうべつべつに草に埋もれて、水に沈んで

夏の終わりを詠った、涼やかでどこか物悲しい歌。
夏の象徴でもあったサンダルが、必要とされなくなり(持ち主が去ってしまったのかも)野原に打ち捨てられているという風景が想像されます。
「草に埋もれて」までは現実の描写。
そして、結句「水に沈んで」は心理描写なのでしょうか。
ひたひたと浸されてゆく感覚は、片方だけのサンダルを通して、自分自身のものとして感知され、 そのとき人は孤独を思い知らされるのです。

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