095:油

[23766]村上きわみさん

あらびあの油井戸から汲みあげたあかいあぶらで燃やす恋文

言葉遊びのような音のリズムが楽しい一首。
「あらびあ」→「あぶら(油井戸)」→「あげた」→「あかい」→「あぶら」のア音の連なり。
アラビアの舞台設定によって、「あぶら」から「アブラカダブラ」という呪文まで連想させると思います。
一首の中で詠われているのは、失恋の昇華でしょうか。
真っ赤な油で燃やされることによって初めて、恋文に込められた想いを解き放つことができる、 と作中主体は信じているのかもしれません。

 

[23080]渡辺百絵さん

ももいろの油とり紙分け合った姉妹の春を静かに終えて

「ももいろ」「姉妹」「春」といった言葉が相互に響き合い、一首のふわふわと柔らかな雰囲気を作り出しています。
仲のよい双子のような姉妹だったのではないでしょうか。
しかし、そんな「姉妹の春」も終わってしまった。
それは姉妹が大人になったことを表しているのだと思います。
離れて暮らすようになったのかもしれません。
いろいろな人と出会い、恋をしたり、傷ついたり、幸せを感じたりしながら、それぞれ別々の人生を歩んでいく姉妹。
姉妹を世界からくるんでいた桃色のシェルターは、静かに、けれどすっかり溶けてしまっていたのです。

 

[22803]なかはられいこさん

哀愁の菜種油をたらしつつフライパン振るミセスロビンソン

「哀愁の菜種油」というキャッチコピーがまず魅力的。
菜種油会社の方々に教えてあげたいくらいです。
「フライパン」と「ミセスロビンソン」のカタカナ表記が持つ、明快で乾いた響きが、 余白の少ない漢字が並ぶ「哀愁の菜種油」と面白いギャップを生み出しています。
ただ、結句の処理の仕方として、「ミセスロビンソン」以外の場合も見てみたい気持ちになりました。

 

[24509]加藤苑三さん

後ろ手に油性マジックを隠し持つのっぴきならない事情のふたり

「のっぴきならない」という言葉が持つ陽気さと、上句の緊迫感とのコントラストに引かれた一首。
「後ろ手」も「油性マジック」も「隠し持つ」行為も、とても切羽詰った状況を表しています。
とくに、油性マジックには人に決断を迫る力があると思います。
一度書き始めたら、もう絶対白紙には戻せない、という問答無用さ。
そんな油性マジックを、誰に対して「隠し」ているのか。お互いに?
ふたりして一本ずつ油性マジックを後ろ手に握り、じりじりと体面している図は、ブラックユーモアのある舞台を観ているようです。

 

[22139]田丸まひるさん

サラダ油の瓶もミルクの瓶も割る世界が平和でありますように

「サラダ油の瓶」と「ミルクの瓶」の選択がまず面白い。
なぜだかとても心引かれます。意味合いでも、字面で取っても。
「サラダ」「ミルク」というカタカナ表記の視覚的リズムのよさ。
それと、「ミルク=赤ちゃん、守られるべきもの」「サラダ油=危険なもの」のように感じて、 そのふたつが並んだことによる不安感が、下句へと緩やかにつながっているのだと思います。
しかし、瓶は割られている状態でいるのではなく、作中主体が割っているのですね。
その作中主体がつぶやく言葉が「世界が平和でありますように」…ほのかな狂気を感じさせます。

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