佐藤ことり作品(平成29年度)

おはようの声のふわふわ立ちのぼり冬の朝日に学生集う

【評】
冬の寒い早朝。
交差点であろうか、コンビニの前であろうか。
学生達が集まっている。
白く立ち上る吐息を、あえて「吐息」と書かずにうまく表現した。
「ふわふわ」というオノマトペは、吐息の様子と同時に、学生の若さや楽しそうな雰囲気まで伝えてくれるようだ。
下の句の収め方も簡潔で清々しい。

 

それぞれの家庭模様が詰められたカゴの中身がスキャンされてく

【評】
鋭い社会詠となった。
買い物カゴの中身を見ることで、その家庭の晩ごはんの献立を知れるというのはよく耳にする話であるが、この一首ではさらに一歩踏み込んで、家族の人数や経済状況など、「家庭模様」まで映し出しているという。
「スキャン」という一語には、情報管理社会に対する批評が込められている。

 

教科書の隅の小さなロケットはパラパラパラと飛び立っていく

【評】
二次元から三次元に空想が飛躍する、伸びやかな一首となった。
第四句「パラパラパラと」は、紙そのものの捲られる音と、実際のロケットが打ち上げられるときに氷が剥がれ落ちる音の、両方に掛かっているように思う。
空へと飛んでいく「小さなロケット」は、若者達の未来そのものなのかもしれない。


 


佐藤ことり自選二十首

おはようの声のふわふわ立ちのぼり冬の朝日に学生集う

カーテンが窓辺から消え隣人の旅立ちを知る春のアパート

それぞれの家庭模様が詰められたカゴの中身がスキャンされてく

半額のトマトは棚で待ちぼうけ夕焼けよりも熟れた色して

太陽の色に染まった向日葵の並ぶ児童絵画コンクール

水浴びを楽しむ子らの傍らに小さな虹は消えたり出たり

午後三時遊び疲れて眠る子の髪から草木の匂いがしてる

夕暮れの園庭のすみで鉄棒にぶら下がってるビニールプール

虫かごのクワガタを見る少年は大冒険をしてきたように

学生の波を飲み込む無人駅 お腹を満たし今はお昼寝

教科書の隅の小さなロケットはパラパラパラと飛び立っていく

柔らかい午後の陽が差す校庭に迷路のような散水のあと

図書館で和英辞典を読む人の口は微かに何かを話す

山奥の美味しい水はコンビニのペットボトルに閉じ込められて

紅葉は光合成をやめたから そう説く君を夕日が照らす

水滴の足あと残るTシャツをグラス片手にただ見つめてる

冬の夜あなたの秘密を知ってから「おかえりなさい」が上手く言えない

北風は飽きることなく電線でビュンビュンビュンと縄跳びをする

花束は花瓶の中で色あせて短く切った髪をひと撫で

トンネルの向こうはきっと舞踏会 万華鏡の先ビーズは踊る

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岸谷潤子

佐藤ことり

堀 恵

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