blue bird 02

その頃、彼女は僕のことを「太陽くん」と呼んでいた。


近所には他に同年代の子どもがおらず、僕らは幼稚園に入る前から、入ってからも、よくいっしょに行動した。
彼女は、愛らしい利発そうなおでこをしていたのに、僕の名前をなかなか覚えることができなかった。
最初の頃は僕も根気強く、会うたびに
「僕の名前はね」
と言っていたのだけど、いつかとうとう彼女は
「もういい。わたし、あなたのことは太陽くんって呼ぶ」
と、強い意志を確かに持った目で、そう宣言したのだ。
僕はなぜそんなあだ名をつけられたのか、全然意味がわからなくて、ほんのちょっと笑うことしかできなかった。


けれど、それからずっと、僕が引っ越してその街からいなくなるまで、僕は「太陽くん」だった。
彼女が太陽くんと僕を呼ぶときは、いつも少しだけ高い声になって、なんだか誇らしげな顔をしているように見えた。

両脚に草の匂いをまとわせて光のなかを僕らは走る


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