あじぃんどぅばぁ

夏風邪の夫に紺のネクタイを白熊たちがひしめく柄の

寝坊助のおとこの喉にどろどろのおばけのようなミックスジュースを

もやもやと夾竹桃がさざめきぬ姑からの手紙の切手

午睡後の小一時間で煮込まれてキーマカレーは夏の季語なり

妄想の飼い馬の名を呟けばもやんと廊下に草いきれせり

苛立ちを喉元あたりに留めつつホットケーキを裏返し焼く

手作りのイチジクジャムを六つ目の壜に移せり 雨音強し

ゆっくりとまたたゆまなく死んでゆく植木ぬるりとベランダにあり

赤飯が炊き上がる間に完璧な犯行予告状の文句を

あじぃんどぅばぁ呪いめいてロシア語の一から九まで響く浴室

雷が遠く近くに落ちる夜 裸身のままで水を飲み干す

読了と言いて夫は帰り来る湿地のようなむねのうちから

冷製のトマトスープのぐじゅぐじゅと返しそびれしメールいくつか

短歌には俺を出すなと言いながらキウイの皮を器用に剥くひと

続々とクローゼットに七月の森が、夫が、流星群が

地図記号当てクイズなど出しあいて夫婦とろりと寝転んでおり

水飴になりし互いの両脚をからませたまましばらく庭に

まんまんにふくらみ次第によじれだし遂にさかまく駆け落ちの夢

目に見えぬひとの分まで焼き上げしクレープ生地に夏風立ちぬ

わたくしの短歌のなかでよく喋りよく食べときに陽に燃ゆるひと

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