夏雲

夕立にどなたかぼくと腐ってはくれませんかと夏菊のそば

この塀の向こうに祖父母が叔父さんが夏の記憶が 月見野霊園

目に見えぬ雨に濡れたる墓石はふいにぬうんと金物臭し

はるかなる雲の峰からむんむんとおまえが憎いとあなたの腕が

これまでの手紙を千切るその指にまっかな蟻のごとき痣あり

約束は破っていいよと自転車を漕ぐ膝にほらあわい夕映え

わたくしの裡に大きな溶鉱炉ありてあなたをむんずと放る

匿ってくれよくれよと夏雲が山際に、海に、わたくしの臍に

幽霊船のように朧に光りおり住宅街の霧雨の夜

もしもしと声を掛ければ溶け出してアドレス帳に潜るひとたち

鍵括弧取り外したるいくつかの名前を放つ湿りし庭へ

だいじょうぶ明日には夏が消え去りぬ しろがね色のカーテンを引く

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